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第28話

蝶ネクタイの男の呟き③

「お客様、医学に長けた者は国に重宝され、もし奴隷堕ちした者がいればすぐに買い手がついてしまいます。ですが、未だに買い手のつかない者がひとりだけおります」


 そうご説明致しましたら、「ほぅ、()()()()()いない、だと?」と、フードの奥からぎろりと鋭い眼光を(わたくし)に向けてきました。


 怯みながら、(わたくし)は嘘は吐いていないと必死になって訴えました。


 歳下の子供に怯むとは可笑しな話ではありますが、(わたくし)は確かにレオリオ様に対して恐怖に近しいものを感じております。それは、きっとレオリオ様の考えが読めないせいなのでしょう。


 (わたくし)はレオリオ様の手にある開かれたままの奴隷資料をさっと捲って、医学に長けた奴隷のページを開け、この奴隷には問題があることをご説明致しました。前の奴隷は国家反逆罪、次の奴隷はテロリストと共謀した犯罪奴隷でございます。


 レオリオ様は資料を見て、明らかに顔を引き()らせておりました。初めて見る普通の反応に、(わたくし)は安堵いたしました。「あぁ、やはり同じ人間なのですね」と。失言でした……レオリオ様は随分と大人びて見えるものですから、つい。


 大人びて見えると言えば、その後に仰った「ここの管理はしっかりしているように見えるが、何故毒を仕込まれた?」という質問で御座います。


 奴隷堕ちすれば、魔力を抑えてスキルを使えないように拘束致しますから、従業員に毒を仕込むのは不可能なのです。レオリオ様の核心をついた質問に、(わたくし)、感服致しました。


 それにしてもあの時は、まさか奴隷堕ち寸前にスキルを発動していたとは思いもしませんでした。魅力に近しいイノセントは、目に見えるものではありませんから、非常に厄介なスキルです。


 レオリオ様は暫くの間、資料を見ては眉間に皺を寄せて考えておられました。流石のレオリオ様もテロリストと共謀し、従業員に毒を盛った犯罪奴隷に興味は示さないだろうと思いました。


「まぁいい、取り敢えず見せてくれ」


 訂正致します。そんなことはなかったようです。



***



 狐人のところまでご案内致しますと、今回はレオリオ様のご要望で、(わたくし)は外で待機することになりました。一体どのようなことを話しているのかと気にはなりますが、お客様に不快な思いをさせるわけにはいきませんので、聞き耳は立てません。


 暫くして、レオリオ様が出て来ました。そして、(わたくし)にここを貸し切りにしたいと仰った後、とんでもない額の金貨を手渡されました。


 (わたくし)は何が起こったのか分からず、頭を真っ白にしたまま取り敢えず返事だけはしました。よく考えてから返事をしなければならなかったのですが、この時、(わたくし)の思考は正常に機能しなかったのでございます。



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