第24話
次は龍人の番だ。彼は、戸惑いの表情を見せることなく、堂々とした態度でソファに座る。元々、緊張しない性格なのか、それとも龍人という種族の性質なのかはわからないが、龍らしいなと思った。足裏に触れる。
「硬いな……もしかして、布いらな──」
い? と完全に言い終わる前に、遮られる。
「いる。皮膚は硬いが、敏感なつくりになっている。随分と昔の話になるが、龍の皮膚は貴重な素材で、その素材を求めて人間が龍を狩るようになった。人間は、よからぬ薬品を用いたり、毒針を撒いて動けないようにしてから、龍を仕留めていた。それに対抗するために、龍の皮膚はかつてより硬く変化し、またどんな危機でも察知できるように敏感になったといわれておる」
もの凄い勢いで畳みかけるような勢いで食い気味に早口で説明してきた。
(なんでそんなに食い気味なんだよ……あ、そうか)
「いや、聞いただけだ。布をケチるつもりはないから安心してくれ……」
「ぬぅ、そういう意味で説明したわけではなかったのだがな……」
何故だか渋い顔をされる始末。一体何が言いたかったのか。
(それにしても硬いな。本当に石みたいだ)
足裏も硬いが、足の甲の光沢のあるシルバーグレーの鱗も硬い。まるで鎧のようだなと思いながら巻く。巻き終わると、「うむ、悪くないな。礼を言うぞ」と満足そうに頷いていた。
次は狼人だ。足を持ち上げて見てみると、体幹よりも体毛は薄く短いことに気がついた。布を巻くため足裏に触れる。
「つっ……⁉︎」
(肉球が……)
「どうかされましたか?」
「いや、何でもない」
表面の皮膚は硬いが、少し押すように触るとその中に弾力のある柔らかさが感じられる。
(犬猫は嫌がって、なかなか触らせてくれなかったな)
布越しに触れる肉球は癖になりそうだ。名残惜しくも彼の足裏に布を巻いて肉球とおさらばした。奴隷だからといって何をしてもいいわけじゃないし、抵抗できない奴隷に対して嫌な思いをさせたくない。
「有難う御座います」
「あぁ」
(さらば肉球)
柔らかい表情を浮かべている狼人に対し、龍人が「ククク」と笑っている。一体何がおかしいのか。
そして、私は狐人の足裏にも布を巻いたのだった。ソファに顔を埋めたままの狐人は、終始無言だった。
(本当に大丈夫かな、コイツ)
でも、狼人とは違った感触の肉球が触れたのは得した気分だ。
***
天井には豪華なシャンデリア、足元に広がるワインレッドの見るからに上質なカーペットを歩く。
上部分がカラフルな磨りガラスのアーチ型バーントアンバーの両開きドアが、蝶ネクタイの男によって開かれる。それがさも当たり前かのような態度で外へと出る。
「お買い上げ頂き、有難う御座いました」
深く腰を折って恭しく蝶ネクタイの男が礼をする。その声を聞いて、ようやく奴隷を手にしたのだという実感が徐々に湧いてくる。
いまだに礼をしたままであろう男に、私は向き直りもせず、正面に向けた顔を自分の肩へ寄せるように動かし声を掛けた。
「世話になった。機会があったら、また頼む。おまえら、行くぞ」
「「「「「はい(あぁ)(了解)」」」」」
こうして、無事に奴隷を買った隼人は、奴隷商館『カミュア』を後にしたのだった。




