第22話
痛みと熱が治り、服の中を覗いて見れば、左胸に紋が出来ていた。契約が無事に結び終えた証拠を見てほっと安堵する。
汗だくになり疲労し、ソファに預けた身体に鞭を打って無理矢理起こす。なよなよした主人だと思われてはいけない。
「……大丈夫か? 狐人」
「大丈夫だけど、起きてすぐに人の心配って、自分の心配したら?」
見栄を張って、「問題ない」と勢いよく立ち上がれば、体重を支えきれず、がくんと床に片膝を付いてしまった。
「ほら、言わんこっちゃない。無理しない方がいいよ、主治医に従ってくださーい!」
狐人も痛かったはずなのに、いまだにソファにダラーんとしたまま、ふざけてそんなことをへらりと言ってくるものだから私は「フッ」と思わず笑ってしまった。
突如影が差して見上げれば、龍人がいた。彼は私の隣にしゃがむ。
「ご主人、許可をくれ。疲労は回復できないが、回復魔法で痛みや傷は治せる」
「許可する。先に狐人を治せ」
「僕より先に───」
「命令だ」
狐人の言葉を遮り龍人に指示を出せば、龍人は狐人の側に寄る。そして、右手の掌を狐人の身体にかざすと、パールホワイトの光が出現する。
狐人の少し強張った顔が緩んだところを見るに、楽になったようだった。
その後、私も回復魔法をかけてもらい、服の中を覗くと、身体を掻きむしった跡は無くなっていた。
「有難う。楽になった」
「いや」と首を横に振った龍人は、何故だかふわりと優しく笑った。
「狐人、動けるか?」
「ぜーんぜん動けるよ~」
ソファに横になってひらひらと手を振る狐人を見て、私はまた蝶ネクタイの男を呼んだ。三度のノックする音と共に、ガチャリとドアが開く。
「失礼致します。先程、凄い声が聞こえましたが───」
「問題ない。それより、全員の首輪やら鎖やら付属品を外してくれ」
「な、奴隷ですよ⁉︎ そんな───」
「買ったのは俺だ。どうするかは俺が決める。何も言わずさっさと外せ」
何度も男の話を遮る。男の話を最後まで聞く気など更々ない。何を言おうとしているか、わかるからだ。
奴隷制度が当たり前の異世界人に何を言っても理解されないし、時間の無駄だと考え、一段と低い声とフードから鋭い睨み放ち、圧をかける。
「ヒィッ‼︎ ししし承知致しました!」
十五の子供にびびって鼠がせっせと働くが如く走って鍵を取りに行き、全員の首輪と腕輪を外した。ただ、龍人の拘束具に触れるのは抵抗があったようなので、彼のは私が外すことになった。
私は麻袋から人数分のローブを取り出し、一人一人手渡した。
「さぁ、羽織れ。今から服と靴を揃えに行くぞ」




