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第19話

 床に落ちている散り散りになった紙を暫く見つめ、そしてクロムオレンジの瞳に移す。


「……書類に不備でもあったのか?」


「いや? ちゃんとした契約書だったよ」


「それなら、何故……」


 訳がわからず、眉間に皺を寄せる。


「何故……ね。君、血の契約ってどんなものか知らずに書いていたでしょ? これはね、最古の契約って呼ばれているんだ。今は使う人がいないから知らない人の方が多いんじゃないかな。だから誰にも説明されなかったんじゃない? とても危険な……契約だって」


(成る程、試していたのか。私が主人に足る人物か……。確かに、頭の足らない主人だと苦労するしな)


「危険な契約であることは百も承知だ。俺が長い時間どこで何をしていたか、貴方は知らないだろう?」


 無言のまま眉をぴくりと動かす狐人は、すうっと狐らしく細い目をした。


「王立図書館で『血の契約』について調べた後、役所で契約書を作成しここへ戻ってきた。血の契約が互いの命を縛るものだということも、違反した場合に命を落とす契約であることも把握している」


 クワッと二つの丸い皆既月食が出現し、射抜くような眼光を向けてくる。その瞳には、困惑が見えた。


「なっ……知っていたのになんで⁉︎ どうしてそこまでするの……?」


「俺がいま欲しいのは、貴方の信頼だ。それがなければ、俺の主治医は任せられないと思った」


 奴隷なら命令すれば何かあった時、治療してくれるだろう。だが、医師は患者の命を預かる身。医師と患者の間には信頼関係があるからこそ、患者は安心して医師に命を預けられるんだ。


 麻袋から血の契約の本と、もう一枚の血の契約専用の用紙を取り出して、また同じ内容を書く。書くのは二回目だから、本をほとんど見ずとも速く書くことができた。カタンと音を立ててペンを置く。血の契約書を狐人の顔前に掲げ、私は挑発的な笑みを浮かべる。


「腰抜けになるつもりか狐人。男に二言はないだろう?」



 信頼に足る何か───証明が欲しい。



 たとえその契約が命を縛るものであっても。


「ハハハハハッ!」


 狐人はうつむいたかと思いきや突然がばっと顔を勢いよく上げて笑い始めた。そして、笑いすぎで溢れた涙を人差し指で軽く払った。


「いいよ、わかった。今日から君の主治医になってあげる。痛いよ? 血の契約は」


「承知している」


 狐人と主従契約を結ぶ。案の定、彼も他の奴隷たちと同様に叫び、暴れ、額から冷や汗を流した。今の彼に血の契約は(つら)いだろう。


 私は、蝶ネクタイの男にさっさと支払いを済ませた後、狐人に聞く。


「この奴隷商館は今日貸し切りにしたから誰も来ない。少し休んでから契約を結ぶか?」


「は、え? 貸し切り? え、どゆこと?」


「ご主人、貸し切りにしたのか。何故(なにゆえ)そのようなことを……」


 狐人と龍人が目を丸くして聞いてくる。他の奴隷は口には出さないが、同じような顔をしている。


(なんでおまえが驚いてるんだよ。狐人が血の契約とか言ったからなのに……)


 そう思いながら隼人は狐人をジト目で見ていたのだった。


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