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第14話

 シルから本を受け取り、私はカウンターから離れて読書をするスペースに移動し、椅子に座った。


 時間帯のせいか、元々人の出入りが少ないからなのかは分からないが、図書館内にはほとんど人はいない。    


 テーブル上で本を開いて、いざ読もうとしていたその時、目の前に誰かが座った。本から視線を外して見れば、険しい顔をしたシルと目が合う。


「どなたかと……血の契約をされるのですか?」


 シルは、テーブル上で両手を組み、固く握っては緩めるのを繰り返していた。


「あぁ、血の契約を条件に俺の元で働くと言われたのでな。だが、俺は血の契約を知らない。実行するかしないかは調べてから判断するつもりだ」


(血の契約……やはり危ない契約なのか?)


「そう、ですか」とぎこちなく返事をしたものの、それ以上追求されることはなく、シルは血の契約について本のページを捲りながら要約し、説明してくれた。


「血の契約は、昔は血の制約と呼ばれていました。これは、最も効力が強く、最古の契約と言われています。今はあまり使う人がいないため、人々の記憶から忘れ去られ、知る人は随分少なくなってきました。その理由は、互いの命を縛り、どちらかが契約を破ればその人は死んでしまうというもので……大変危険な契約だからです。契約で使われる用紙は、役所にあります。用紙を購入する際、遺書を書くことを勧められるくらいなんですよ」


「契約を破らなければいいだけだろう? それに、俺は三年しか契約しない」


「確かに破らなければ、問題はありません。しかし、三年であっても、命を縛らてしまうんです!」


 シルの声が段々と大きくなる。彼はいつのまにか立っていて、テーブルに両手をつき、視線を合わせるように顔を近づけてきた。ローシェンナの瞳が潤んでいる。今にも泣きそうな顔だ。


(優しいんだな……)


 思わず笑ってしまいそうになる。嬉しくて。私は表情を隠す為に身体を斜めに動かし、少し顔を下げ気味にする。


「命を縛られても、契約する上での代償もないのなら、なんら問題ない」


「問題大有りです! 血の契約を利用して相手を殺そうとする人だっているんです!」


 (つい)にシルが大粒の涙をぼろっと流した。


(あぁ~駄目だ、笑いそう)


 自分のためにここまで大きな声で訴え、涙を流してくれる。こんな嬉しいことがあるだろうか。


「問題ない。契約の相手は奴隷だからな」


 表に出そうな感情を誤魔化すために、私は悪役の笑みを浮かべる。


「つっ……⁉︎」


「その契約を利用して俺を殺すのは無理な話だ。その前に主従の契約で縛られるのだからな」


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