表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/67

第1話

 新緑の()(しげ)る木の葉の隙間から、雲一つない蒼穹(あおぞら)が覗き見える。そこを度々、鳥類よりも遥かに巨大なものが数羽、いや()()通過していった。一目見て、誰しもがそれが何なのかわかるだろう。ドラゴンの類いであると──。


「まいったなぁ〜」


 左手を腰に当て、もう片方の手で後頭部をぐしゃぐしゃと掻いて仁王立ちし、通過するドラゴンを見上げているのは、少女──柊木(ひいらぎ)隼人(はやと) 十五歳である。


「まいったなぁ〜」と口では言うものの、そう言った隼人の表情といえば、ほんの少し眉を下げるだけで、"一大事"や"生命の危機"といった程のまいったという感じではない。精々"教科書を忘れてまいった"くらいなものである。


 隼人の現在の状況をたったの一言で説明するならば、『突然、異世界(現実ではないどこか)へ転移してしまいました』であろう。


 最近の子といえば、若者をターゲットとした小説であるライトノベル──通称ラノベを読み漁る傾向にあるようで、ジャンルでは異世界転移もしくは異世界転生ものが非常に人気だ。


 異世界転移とは、何らかの要因で今いる現実世界から突然、異なる世界へ来てしまうこと。異世界転生とは、現実世界で事故や他殺等により死亡し、異なる世界へ来てしまうことをいう。


 異世界の元となっている世界は、中世ヨーロッパや北欧神話が多くを占め、RPGロールプレイングゲームすなわち、キャラクターを操作し、仲間づくりや探索、冒険をしたり、スライム等の魔物(モンスター)を剣や魔法で倒すゲームのような世界観になっている。


 簡単に言ってしまえば、中世ヨーロッパや北欧神話のようなところで、まるでゲームのように剣と魔法を使って冒険できる世界だ。


 であるから、もし本当に異世界転移もしくは転生したならば、無敵に匹敵する能力(チート)を使用し、異世界生活を満喫するのが常であるという思考に至るのが一般的である。それは、隼人も例外ではない。


 しかし、突如として異世界に来てしまったならば、はじめは誰しもが不安を覚えてもおかしくはない。魔法は使えるのだろうか、チートがあるのか、神の加護は、衣食住は、といった不安がだ。


 そんな期待と不安を抱きながら、異世界に来た者たちは唱えるのだ。


"自分()の現()在の()状態()を表()すデ()ータ()を表()示する()"と。大抵の者は、魔力やチートなどが備わっている。しかし、いざ隼人が心の内で念じてステータスを確認してみれば、空中に薄緑のパネルが出現し、そこに白い文字が浮き出た。



────────────────────────────────

 名前  柊木(ひいらぎ)隼人(はやと)

 年齢  15歳

 性別  女

 種族  人間(異世界人)

 魔力  使用不可

 スキル 使用不可

 所持金 (無限)(登録収納:麻袋)

 装備  簡易軍服(黒)、ローブ(黒)、革

     手袋(黒:指先がない手袋(デミグラブ))、麻袋、サ

     バイバルナイフ、ブーツ(黒)

 開示  OFF

────────────────────────────────



「これじゃあ"異世界チート生活"じゃなくて"異世界ニート生活"になってしまうよ。ヒトから働く楽しみとってどうするんだ、神さん……」


 チートと呼べるのかはわからないが、似たものはあった。それは一般的なものではなく、"無限に使うことのできるお金"だった。

 

 しかし、金だけで身を守り続けるのは厳しいのが現状である。そして、隼人の目の前にはステータスとは別に、カウントダウンが赤字で表示されていた。



────────────────────────────────

 書字自動言語翻訳解除まで

 あと残り0日 23:42:54

 ※種族異世界人により神の慈悲で音声自動言

  語翻訳は免除

────────────────────────────────



「……」


 隼人はカウントダウン表示を凝視し、何度も何度も繰り返し視線を這わす。


(慈悲……そこはついでに書字も免除するところじゃないのか?)


「嘘だろ。優しいんだか厳しいんだか……」


 この世界の神は、異世界人に案外厳しいのかもしれない、と思う隼人であった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ