『アーシャ・クロイド・マクシエル』
「最低!最低です!寝込みを襲うなんて男性として最低です!」
「いてぇぇぇぇええ!不意打ちだ!卑怯だ!」
「何が卑怯ですか!人の胸を触って殴られないわけがないでしょう!」
「わけわかんねぇよ!つうかなんで俺と同じ言葉話せるんだよ!お前知性のある魔物か!?だから狂暴なのか!?」
「誰が魔物ですか!同じ人じゃないですか!」
「どう見ても同じじゃねぇだろ!そんな細いくせに俺と親父と同じわけないだろ!」
「男と女なんですから違うにきまってるじゃないですか!それにあなたのお父様がどんな方かは知りませんがあなたの体が異常なんですよ!そんな大きな体して!」
「男だ女なんて知るか!それに俺は細い方だ!親父にもそういわれてる!」
『女』とやらはいきなりぶん殴ってくるし、人のことをいきなり罵倒してくるわでロクな生き物ではないことが分かった。こいつら『女』は危険な生き物だ。
「親父!女とやらが攻撃してきやがった!こいつぶっ飛ばしちまってもいいか!」
俺は身の危険を感じ親父へと攻撃開始の確認をとる。食えないといわれたが、その前にこんな生き物食う気がしない。
『でかいやつ』と『牙のやつ』を倒すぐらいの危険度だ。確実に仕留めないとこっちがやられる。
俺が臨戦態勢をとると『女』もそれまでの抜けた雰囲気から戦闘の雰囲気へと目の色を変えた。
木々がすれる音がしてその場のピリッとした雰囲気がより際立つ。お互いの浅い呼吸と目線でのやり取りをしながら出方をうかがうと…。
「てめぇ女相手に何本気で戦おうとしてんだ!」
「いってぇぇぇぇえええ!」
親父からの拳が脳天に降ってきた。
「いてぇなくそ親父!」
「誰がくそ親父だこのクソガキ!食っちまうぞ!」
「当たり前だろ!目の前に敵がいるんだぞ!しかも『でかいやつ』と『牙のやつ』を倒しちまうような魔物だぞ!」
「あんな『ブラックベアー』と『マッドファンゴ』なんて赤ん坊でも倒せるわ!そんなことぐらいでビビってんな!」
「びびってねぇし!」
相変わらずの謎理論で攻めてくる親父との喧嘩を見てか『女』はぽかんと口を開けた。
そんな『女』を見て親父は「わりぃな」と口を開いた。
「このクソガキ礼儀だ何だってものを知らなくってよ。世間知らずのガキなんだ」
「い、いえ。こちらこそ突然触られて少々動揺してしまったせいなので…。すみませんがあなたは?」
「おぉ、わりいな。名乗るのが遅れた。俺の名前は『クロード・オリヴェル』だ。こっちのガキは『ライト・オリヴェル』って言って俺の息子だ」
「ご丁寧にありがとうございます。私の名前は『アーシャ・クロイド・マクシエル』です。アーシャとお呼びください」
「アーシャちゃんか、よろしくな。それにしてもマクシエルか。有名な貴族様がなんでこんな森の中へ?こんななんにも無い所に」
「……少々人を探していまして」
「あ?こんな森に人を?誰か迷い込んだなんてのはねぇはずだが」
「いえ、あなた様を探していたんですよクロード様」
そういいまっすぐ親父を見る『女』。身に着けている毛皮の中から一枚の紙を出すと親父へ差し出した。
「クロード様、王宮より召集がかけられております。大至急王都へ出向してください」