拾われた弱者
草が揺れ、葉か落ちる音がする深い森の中。時折聞こえる生物の足音がその森が実りの豊かな地であることを教えてくれる。
しかしそこを徘徊する生物の中には弱い生物の姿はなく強く、危険ランクSランクばかりの危険地帯だ。
人が住むこともできず、入ったものには皆等しく死が訪れることから[眠りの森]と呼ばれていた。
しかしそんな森の中もまるで自分の家の中を歩くように自由に歩き回る男がいた。
体に刻まれた傷、そして屈強と言う言葉でさえ足りない体で辺りを見回しながら徘徊している。
そしてしばらく歩いたところで男は目当ての物を見つけ歩みを止めた。
「ったく、なんだってこんな所にガキなんか」
高く延びた木から落ちた木の葉の中に埋もれている、この森の中で間違いなく一番弱い生命体がいた。
生まれて間もないのだろう、シワが多く目もまだ開いていない生き物はなにかを探すように手を開いたり閉じたりしていた。
しかしその動作にも力はなく、衰弱しかかっていてこの世に来たと言うのにもう別れを告げようとしていた。
男は辺りを見渡し親を探したがそれらしき姿も、親だった物も見つからない。いったいどうやってこんな所へ運ばれて来たのかを考えながらも、この弱い生命体にまるで毛布のようにかかっている木の葉をどけた。
木の葉をどけるとさらに驚いた。布にくるまれているわけでもなく、入れ物に入れられたわけでもない生まれたままの姿で大地に寝転がされていた。
まるでここで生まれたかのように大地にそっと包まれていたのだ。
「くっそ、俺はガキのお守りなんかできねぇぞ…」
男は手を伸ばしその小さな生命体の頬に触れこのまま見なかったことにするか、長らく降りていない人里へ届けに行くかを考えた。
すると、それまで空を切っていた生命体の手は吸い込まれるかのように男の手を掴んだ。
男はぎょっとしはなそうとしたが、か弱い力ながらにしっかりと指を捕まれ男を逃がさなかった。
「おもしれぇガキだ。この鬼についてくるか?」
鬼。
自らをそう呼んだ男の顔にはおおよそ鬼とは思えないような優しい表情が浮かんでいた。
鬼もその生命体に返事を求めるわけでもなくただ発した言葉だったが、その時ふっと不思議なことに赤子が笑った。
それはまるでついていくと言っているようだった。
「よっしゃ気に入ったぞガキ。お前の事を今日から守ってやる。死んだりしたら焼いてくってやるからな!」
落ち葉の中から抱き上げると片手で天に向かってその生命体を掲げた。
「お前は今日からこの鬼の子だ。名前は…」
自分の子とすると決めたが名前が浮かばない、だが決めたからにはと悩んだが鬼にそんな頭はなかった。
しかしふと昔の友人。いや、かつて自分が追い込まれたライバルの顔が浮かんだ。
長い金髪の細い髪を振り乱しながら戦場で戦った相手。銀色の鎧を真っ赤に染めながら自分に立ち向かってきた相手。
鬼と恐れられいくつもの戦場や狩りにおいて何人も寄せ付けずただ一人で暴れまわっていた自分に食らいつき立ち向かった相手。
そのスピードと金色の髪がなびく美しい姿からまるで閃光だと例えられ、自分と同じように二つ名をつけられた相手。
自分の子として、自分に並ぶものとしてそのながいいと男は感じ取った。
「よし、お前の名は今日からライトだ。強く根性のあった俺のライバルからとった名だ。そのなに恥じることなく生きろよ!」
がっはっはと大きく笑ったその声は深い森の中でこだましていった。