サカナ
早朝のサカナ市場は忙しい。
サカナを持ってくる人、売る人、買う人とでいっぱいになるからだ。特にメリムー市場の活気といったら他のどのサカナ市場よりも名が知れ渡っている。高品質で生きのいい、若いサカナが取れるからだ。
「はーい皆んな!集合してくださーい!」
「はーい!」
スーツを着た若い女が子供たちを一列に並ばせている。今日は待ちに待った市場体験だ。
黄金や宝石を身につけた子供たち。一列だなんて窮屈なことなどできるものか。皆、ワクワクで目が輝いているのだ。手すりから乗り出して、ガラスの先に見えるサカナたちを我先にと見つめている。いよいよトラックの扉が開く。中からサカナが現れると子供たちは大きく飛び跳ねて喜んだ。
「すごい!サカナがいっぱい!」
「すっごいね!皆んな可愛い!」
誰かがそう言うと先生はにっこりと口角を持ち上げた。まるで自分のことを言うように。
「なんたってアロワ村で取れたサカナたちですもの。あそこは評判がいいんですのよ」
「へえ〜〜!」
サカナたちはその時。
ガラスの向こうに映る幼年たちが人垣を作り出しているのを見た。皆無邪気に、私たちの頭の上からつま先まで目を輝かせて見つめている。
私の腰にはBと書かれている。これは総合的に「私の価値」を示しているもの。胸の大きさ、健康具合、月のものは来ているか、きちんとした家名か、に基づいて評価される。そして大事なのは主に私たちは男性に売られる。
なので私たちはより男性に好かれる容姿でいなければならない。男性は私たちを常に評価している。「あの胸はいい」「顔はいい。抱いてやってもいい」「老けている」「若すぎる」
私たちの運命は生まれた時すでに決められている。その運命を楽なものにするか、苦痛なものにするかは私たちの身体に懸かっている。
【解題】
単刀直入に「サカナ」とは「女性」を指します。物語では人身売買のマーケットを舞台に、私の語りで進められていきます。女性とは一体何でしょうか。もし、実は女性が社会の中で常に男性に評価されているとしたら、という所に触れています。SNSや街中で飛び交う「あの子の胸が大きい」。そんなさり気ない言葉に潜む棘というものを「何も分かっていない子供」と対位させてみたら、男性はもう少し自分たちが一体何を口にしているのか考えるべきだと思います。それが常軌であると思ってしまうなら、女性たちにとって今の社会は息苦しかったりするかもしれません。