第3話 鍛治師のスキル
「ハル」と呼ばれたタオルキャップの男は意外にも若く、セシリーと同等、下手をすればセシリーよりも年下のような印象を受けた。
鍛治師といえば髭もじゃのジジイをイメージしていたセシリーは少々面食らう。
「おはようサーフェス、そちらの方が依頼人?」
「おう、客連れてきてやったぞ。感謝しろよ」
厳ついオッさんはサーフェスという名らしい。
まあそんなことはどうでもいいが。
「アンタが鍛治屋ポルカの主人?」
セシリーが問う。
「ああ、鍛治師のハルバードって者だ。早速本題に入ろうか。この度はどういったご依頼で?」
(ノータイムで本題に入ってきやがった。流石はプロ)
まあ無駄な問答をしなくて済むのはセシリーにとってもありがたいのだが。
「剣が折れちゃってね、直してもらいたいの」
セシリーは早速無惨な姿となった愛剣、ファルシオンを取り出し。鍛治師ハルバードに手渡す。
「ほおお」
ファルシオンを手に取った途端、鍛治師は目を輝かせ感嘆の声を漏らす。
「え?何??」
その挙動を不審に思ったセシリーが思わず問いかける。
「ああ、悪い。この剣が余りにも素晴らしいからつい。いやあいい剣だぜこれは、うん。これ程の業物は中々お目にかかれねえ。霊剣ファルシオン、かの《星の七振り》に勝るとも劣らない代物だぜ」
興奮した声色で鍛治師は語り始めている。てか・・・うん??
「なんでその剣の名前知ってんの?」
まだセシリーは剣の名前を口に出してないはずだが。
「ああ、それは《鍛治師》の《鑑定スキル》によるものだな。俺は武器であるならばその手に取って視認した時点でその武器の銘、ステータス、材料なんかが読み取れるんだ」
「へえ・・・」
確か酒場のマスターはこの鍛治師は伝説の聖剣をも打ち直して見せたと言っていた。鍛治師としての実力は確かなものがあるらしい。
「で、直るの?私の剣は」
「ふむ・・・」
鍛治師はマジマジとファルシオンを眺める。
「直らない・・・とは言わんがここまで見事に真っ二つになってるとどうしても優秀なツナギは必要だな」
「ツナギって?」
「ツナギってのは欠損した部分を接合するための素材だ。と言っても真っ二つになった剣を繋ぎ合わせるんだ。生半可な素材じゃあつとまらない。」
「・・・・・」
セシリーは少し考えた後、再び質問をぶつける。
「てか、ファルシオンの元の素材を使った方がもっと簡単なんじゃないの?」
「・・・まあそれはそうなんだが、ファルシオンの素材、原材料は《オリハルコン》だ。コイツはSランクの魔鉱石なんだが、これが今のレートだと1g100万ゼノは下らねえんだよ・・・アンタ、そんな金出せるか?」
「なるほど、コストがかかりすぎるということね。」
「そそ、だからツナギを使うわけ」
金には困ってないセシリーだが流石に何千、何億ゼノというのは無理がある。
「で、そのツナギには何の素材を使うの?」
「それなんだが・・・」
というと鍛治師は何やら書物を取り出しページをパラパラとめくり出す。
しばらくすると
「あったあった。これだ。《サーペントドラゴンの魔爪》。《オリハルコン》との高い親和性を待ち、強度、靭度ともに申し分なし」
「え・・・何を・・・?」
セシリーは長年で培った危機察知能力で嫌な予感を感じつつ後ずさりする。
「てことで《サーペントドラゴン》、狩りに行こうぜ」