第1話 剣、折れる
「はあ・・・」
夜が更けてなお熱気と活気に包まれる夜の酒場で1人、女はアンニュイなため息を漏らす。
彼女の名はセシリー・ローエングラム。
このセントラルワールドの中でも珍しい女性のソロハンターであり、ワイバーン級の称号を持つ一流のハンターである。
「どうした?セシリー、いつも以上に陰気な面して」
「・・・どうしたもこうしたも、折れちゃったのよ私の愛刀が」
酒場のマスターの問いに心底気怠げな態度で答える。
「愛刀ってえとお前さんがルーキーの頃から使ってたあの?」
「そう、私の愛しの霊剣、ファルシオン。流石にもう寿命だったのかなぁ・・・。昨日、雑魚モンスター相手だったのにポッキリ、真っ二つに折れちゃった」
「そいつぁご愁傷様」
マスターのあまりにも塩な態度にセシリーは更にイライラを加速させる。
「あああああああ!!!これで今まで積み重ねてきた熟練度もパアじゃねえか、最悪ッッッッッ!!!クソがああああああああああああ」
「オイ!テーブルが壊れるから叩くのはやめてくれ!」
「チッ」
相手にも聞こえる程度にあからさまに舌打ちをするセシリー。
ヒステリックなった彼女を鎮めるため、マスターはやれやれといった気持ちで1つの提案をする。
「その剣、ひょっとしたら直るかもしれんぞ」
「!ほんと!?嘘だったらその立派にこさえた髭を伐採してやるわよ?」
「まあ聞け、あくまで噂で聞いた話なんだが、共和国の コスタルカ って町に相当腕が立つ鍛治師がいるって話・・・なんでもそいつは聖剣クラスの伝説の武器でも鍛え直すことができるらしいぜ」
「・・・腕利きの鍛治師ねえ、それに共和国か」
この セントラルワールド はおもに最大領土をほこる ギルガルド帝国 それに次ぐ勢力を持つ ムーンサル王国 、比較的最近成立した アーガルズ共和国の三大国とその他少数の小国家から成る。
ちなみにこの酒場はギルガルド帝国の首都 アンセムに存在する。
「なるほどね、情報ありがとう。お代ここに置いていくわね」
「おう、行くんなら気いつけろよ。帝国も大概だかあっちにもきな臭え噂がわんさかあるんだからよ、特に女神・・・ってもういねえ!聞けよ!オイ!!」
即断即決即行動を理念の1つとする彼女はすぐさま共和国のコスタルカへ向かった。とりあえず可能性がある以上ダメ元でもすがるしかない。この剣は唯一無二の剣。彼女の幼い頃より苦楽を共にした剣なのだ。
仲間を持たぬ彼女にとってその剣には並々ならぬ想いがあった。
「共和国か・・・あ、そういえばその鍛冶師の名前やら居場所やらを聞くの忘れてた。まあそんなに腕利きなら現地で聞き込みすれば一発でしょ」
セシリーは一路、コスタルカへ馬を走らせた。