父親は娘を溺愛するもんなんですよ?
娘を想う親心。
「じゃ、ここエントランスまででいいか」
「えー、玄関まで運んでよー。重いし」
「それくらい自分でなんとかしろよ。エレベーターもあるだろ」
「ぶーぶー」
「しっかし、お前も結構なお嬢様なんじゃねーのか? こんな高層マンションに住んでるとは」
「何言ってんの、確かに親はそこそこお金持ってるみたいだけど、家以外はごく普通よ。カップ麺も食べるし、お寿司は回るところばかりだし」
「家にだけ力が入ってる?」
「なんか、セキュリティーのしっかりした物件を選んだらここになったって」
「……あー、そういうことか」
「なに?」
「親はお前が心配なんだよ」
「へ?」
「お前、愛されてるみたいだな」
「いやまぁ、普通に仲いいし。けど、わりと放任主義よ。関心が無いわけではないみたいだけど」
「それはお前が信用されてるってことだ。お前が取れる責任の範囲で行動してる分には見守るだけにしてるんじゃねーか?」
「あんたさ、いつからあたしの親になった?」
「お父さんと呼びなさい」
「クソ親父、金よこせよ」
「ま!? なんてはしたない! そんな子に育てた覚えはありませんわよ!」
「なんでオカンになってる?」
「とまぁ、お前の親代わりの俺様からすれば、ご両親の気持ちは痛いほどわかるのだ」
「なんかウザい」
「親の心子知らず」
「あんたの言ってることが当たってるかどうかはわかんないけど、確かに親に冷たくされたりしたことは無いかな」
「お前、兄弟っているのか?」
「ううん、一人娘よ」
「あー、じゃあもう目に入れても痛くないってやつじゃん」
「あんたとこは妹ちゃんがいるわよね」
「おう。妹ラブ」
「キモい」
「うちの親父が妹溺愛でなー。別に俺が不当な差別を受けてるわけではないけど、はたから見てると妹への愛が半端無い」
「へー。あんたも相当シスコンみたいだけど、お父さんもすごそうね」
「シスコンちゃうわ。まあ、なんつったって天使だしな」
「そうねー、あの可愛さならメロメロになるのわかる」
「だろ?」
「うん」
「だからお前の親もそうなんだって」
「え?」
「お前も相当可愛いからな。そりゃセキュリティーのしっかりしたところに住むのも無理はない」
「なっ!」
「わかった?」
「いや、ちょ」
「お前から見たら放任主義かもしれないけど、たっぷり愛されてるんだよ」
「う、うん」
「だから俺はここで帰る」
「どういうこと?」
「玄関まで行ってみろ、お前の親父さんにボコボコにされるわ」
「そんなことしないわよー」
「俺の妹が男連れてきたら親父はたぶんボコる」
「そ、それは分かる気がする」
「だからお前もそうなんだって。お前、めっちゃ可愛いからな」
「なっ!?」
「照れるな、今のはお前の親の気持ちを言ったのだ」
「う、わかった」
「よし、理解したなら俺はここで帰るからな。ほら荷物持て」
「わかったわよ。わかったけど、なんかうまいこと言って押し付けられた感がヒシヒシとする」
「ほう。意外と鋭いな」
「なんですって!?」
「いやいや、独り言独り言。ほいじゃ明日学校でー」
「あーーーー、もう!」
「じゃーなー。可愛い娘よー」
「うるさい!」
結局あまりの荷物の重さに親に手伝ってもらったのであった
よく一人で全部抱えてたな。