お勉強はお嫌いですか?
主導権は誰の手に。
「まったく、服ってなんでこんなに重いんだよぉ」
「文句言ってないの。次はこっちよ」
「一体どんだけ買えば気が済むんだよ。親の仇みたいに買いやがって」
「女子とはそう言うもの。女子とファッションとスイーツは不可分なの。よく覚えておきなさいよ? 試験に出るよ?」
「なんの試験だよ。期末考査にでも出るんかよ」
「そんな定期考査なんかで出るわけないじゃん。実地試験よ。しかも抜き打ち」
「うへぇ」
「赤点取ると地獄の補習が待ってるからね」
「なにそれ怖い」
「だからちゃんと勉強することね。あんたはそのへん全然ダメダメなんだから一心不乱に打ち込みたまえ」
「ずいぶん上からだな。そこまでかよ」
「『俺の青春』ってやつが輝くかどうかは、抜き打ち実地試験の成績次第。暗黒の青春を送りたいの?」
「いや、それはまぁ、輝く方がよいかと」
「あたしが勉強手伝ってあげるから頑張るのよ」
「お、おう」
「素直でよろしい」
「わ、わかったからちょっと休もうぜ。詰め込み学習は効率悪いだろ? 適度に休憩を挟むことでモチベーションも維持される」
「その提案は傾聴に値するわね。じゃ、そこのソフトクリームの売店に行きましょ」
「いいね。空席は…… 無いな。やっぱ昼時は混むなぁ」
「しょうがないわよ。ソフトクリームくらいだし立ったまま食べればいいし」
「いや、休憩なんだから座りたいんだよ。荷物重いし」
「あんた、ホント体力無いわねぇ。体力も考査されるのよ? そんなんじゃ補習よ? 暗黒青春よ?」
「めっちゃ試験されてる。まぁ、ここんところ体動かしてないのも事実だし。体力付けないとなー」
「ということで、あんたは荷物持ったまま立ってなさい。下に置かないでね。わかってる? これは試験よ」
「俺、なんか損ばっかりじゃね? すでに青春が陰ってきてない?」
「大丈夫よ。あたしの青春は輝いてる」
「まさかのゼロサムゲーム? もしかして吸い取られてる?」
「馬鹿言ってないで、ほら、ソフトクリーム何にするの? 買ってきてあげる」
「おう、悪いな。じゃあ抹茶で」
「了解。ちょっと待っててね」
「ほーい。……しっかし重いなぁ。両手いっぱいになってるのにまだ買うつもりかな。まぁすこぶる機嫌が良さそうなので何よりだけど。……おい、走るな、落とすぞ!」
「大丈夫よ。へへっ、あたしはチョコバニラ。これ最強」
「ふむ。ところで、俺はどうやって食えばいい? 荷物を置かないと手がふさがってるんだが」
「ふふふっ 食べさせてあげる。あーんして」
「ちょ。お前こんな衆人環視の中あーんをさせるのか? おい、もしかしてさっきの復讐か?」
「くっくっくっ 貴様はこれから、か、か、可愛い女の子からあーんをさせられるのだ。ざまあねえ」
「『可愛い』でどもってんじゃねぇよ。そんで赤くなってんじゃねーよ。耳まで真っ赤だぞ。自爆攻撃かよ」
「うううううるさい! いいからあーんだ! あーん!」
「わかったわかった。俺は動じない、動じないよ? 衆人環視であろうとなかろうと、あーんくらいは屁の河童だ。それ、あーん」
「うわっ わりとあっさり応じやがった。あんたには羞恥心は無いのか?」
「お前が言うか? いいから食わせろ」
「ううっ ほらっ。なんだかこっちも恥ずかしくなってきた」
「やっぱ自爆してんじゃんかよ。真っ赤かよ。お前可愛いな」
「やめろ可愛い言うな!」
「ふふん。ほれもっと食わせろ」
「うううううー ほらっ」
「あーん。うまいねー。抹茶うまいねー」
「……」
「ひゃっひゃっひゃ。あーそーだ。お前のそのチョコバニラもうまそうだな。それも寄越せよ。ほら、あーんだ」
「なっ!? そ、そんなの無理!」
「いいじゃん。俺の残りの抹茶はやるよ。シェアってやつだ」
「シェアって、シェアって、」
「いいじゃねーかよ、お前も二種類の味が楽しめる。これぞWin-Win、素晴らしいソリューションじゃねーか」
「ビジネスみたいに言わないの! くぅぅ、この恥知らず!」
「いいから、そのお前がペロリと舐めたチョコバニラを俺の口に入れてくれよ」
「いやらしい言い方するんじゃないわよ! どんだけ恥知らずなのよ!」
「お前があーんを仕掛けてきたんじゃねーかよ。俺はそれを受けて対案を提示した。別にスルーしてもいいけど、そしたら俺の勝ち?」
「ぐぎぎぎぎぎ あんたなんかに負けるわけないじゃないの。いいわよ、あたしのペロ……」
「そこまで言わなくていい」
「あ、あたしのチョコバニラをあーんしてあげるわよ! ほらっ! ほらっ!」
「おおう、来たー。うーんおいちー。ペロリおいちー」
「ペロリ言うなああああああ!」
「おいおい、さっきから声大きいって。みんなが見てるぞ?」
「えっ!? もっ、もうっ」
「真っ赤だな」
「やめて」
「ソフトクリーム溶ける前に食べないとな」
「う、うん」
「お前ホントかわぐおおおおおおおおおおおおおお」
残りのソフトクリーム全部口に突っ込まれた。
勝者無し。