足掻き
蝉が泣き止みススキが風に靡く季節、夜月はコンクリートの摩天楼群に隠れながら明かりのついていない佐藤タクミの部屋を細く照らす。
タクミは月光と暗闇の狭間で、自身が執筆しているライトノベル『異世界魔術譚』の人気の低さに頭を抱えて絶望していた。
彼の小説は中堅出版社の淡水社文庫の人気投票で常に最下位争いをしている様な不人気作であり、新刊が出版されても重版がかかることはまず皆無な状況であった。
ネットの掲示板やツイッターの書き込みにおいても、その小説の評価は惨憺たるものだった。
『文章が稚拙すぎ』 『マジつまんない』『ありきたりな設定』などの書き込みが大半を占め、巷ではクソラノベの烙印を押されている。
そういった評価を打開すべく、タクミは夜な夜なノートパソコンの画面と睨み合いをしながら執筆活動に明け暮れていた。
「チキショー!なんで俺のは人気ないんだよ!クソ!・・・最初は良かったんだ。新人賞も獲ったし、『期待の星だ』なんて言われてたし。なのになんで連載一年でこのザマなんだよ」
タクミが項垂れていると、来客のチャイムがけたたましく鳴った。
さらに、玄関のドアの向こうからはなにやら声がする。
「おーい、生きてるか?差し入れ買ってきたから開けてくれー」
タクミは重い腰を起こして聞き覚えのある声の方へノソノソと歩いて行った。
「新聞はお断りしてますー。どうぞお帰りくださーい」
渋々ドアを開けるとそこにはタクミの担当編集である楠が立っていた。
「俺ちょいと絶望ナウだからお帰りください」
「タクミ。俺だ。楠だ。てかいつまでも外に立たせてないで客を中に入れんか」
「なんだ楠さんか。はいはい。どうぞ中へ、お客様」
「なんだとはなんだ。進捗を確認ついでに折角いろいろ買って来たのに」
「それはそれは誠にありがとうございます。そして早くお帰りくださーい」
「まったく、そんなんだから人気低いんだよ。あと、電気くらいつけろ」
「俺の性格と作品の出来は関係ねーだろうよ。てか家来て早々うるさいよ」
「はぁー」っとため息をつきながら楠は買ってきた酒やらツマミやらを並べ始めた。