表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/165

第59話「意識を手放して」

 まるで見えない水が肺に入り込んでしまったかのようだった。

 苦しくて息を吸おうとするが、まともに息が吸い込めない。

 必死になって空気を貪ろうと何度も何度も吸い込むのに、そもそも吸い込む力が落ちている。


 激痛は全身に広がって視界を真っ白に染めるほどになるが、それも次第に強烈な熱に変わる。

 左胸がじくじくじわじわと焼かれ、炙られているような熱と痛みが、脈動と共に全身に駆け巡る。

 痛みと熱と苦しさと、そしてそれがすべて自分の身体に起きているという現実が、ぐるぐると頭の中で回って考えがまとまらない。


 脳髄が、精神が、激痛から逃れようとするのに、逃れようがない。

 左胸を貫通している剣のようなものは、引き抜かれるでもなく、そこにある。

 考えが、考えがまとまらない。血が、込み上げて―――。



「ぉ、ぇ……ぁ、ぅ……」



 ごふっ、と、吐血。

 今までこんなに自分の血なんて見たことあったかと、ぼんやりとし始めた思考が変なことを考え始める。

 いや、鼻血だってここまで出たことはないし、図工の時間にカッターで手を切ったときもここまでじゃなかったな。



「ルールー……あなた、此方に対してまで規定魔力量・・・・・だとか気にして本気出してなかったですねぇ?」



 痛みと苦しさだけで意識が辛うじて繋ぎとめられている中、鈴が鳴るような声が頭に響く。



「っ……高等魔法使いがなにかしらの戒めを受けているのは、なんら珍しくないでしょう! コウを、コウを放しなさい!」



 それに対して声を張り上げるのは、ルールーだ。

 ルールーが声を張り上げるなんてこと、あっただろうか。

 いや、そういやついさっき魔法ぶっぱなしながら技名叫んでたな、あれはかっこよかった。


 

「ええ、ええ、そうですねぇ……でも、《澱み》はあなたのその高慢と怠惰と偏見を、きっと飲み込んで殺してしまいますよ?」 


「―――国と王に仕える魔法使いは、それでも最期まで賢人の叡智を讃え続け、間違いなく《澱み》を滅します」


「あはぁ? 国と王というしがらみは、きっとあなた方の邪魔にしかならないでしょうにぃ……」


「私はもう、理性無き叡智など追い求めていませんから。獣の道を往くあなたには分からないでしょう」


「そうですねぇ、此方には分かりませんねぇ……此方の知りたかったことは、そこにはなかったのでぇ」



 ごりっ、と身体の中でなにかが擦れたような感覚が響く。

 身体の内側でなにかが動いたような感触があった。

 ああ、ミレアの腕がおれの骨にあたったのかと答えを出した時、 



「でもこの転生者から此方の腕を引き抜いたら、どうなるかは知ってますよぉ?」



 左胸を貫いていたそれが一気に引き抜かれ、オレにへばり付いていたものが一気に離れていく。

 拘束を解かれて自由になった、解放されたという感動すら浮かばない。

 感情はもうとっくに鈍化して、思考は凍りついたまま、身体なんか動くわけもない。


 膝から崩れ落ち、地面に横たわる。

 すぐそこに黒々とした血を啜る、タールのように黒いスライムのようなものがいた。

 それがミレアだ。オレたちが戦っていた、化け物。


 まるでこちらを嘲笑うように、表面を波打たせ、その化け物は静かに地面に潜っていった。

 殺しても殺しても死なない上に、地面にまで潜って、分裂して、不定形で、そんな相手が敵だった。

 オレ一人だったらなにも出来ないで死んでたな、秒殺どころかコンマ一秒で某死にゲーRPGみたいにあなたは死にましたと、《YOU ARE DEAD》、だ。


 ああ、まったく、ルールーじゃないけれど、このまま地面と一体化してしまいたい。

 瞼を持ち上げているのもつらくなって、目を閉じれば静かな暗闇が降り、――てくるわけもない。

 ひたすらオレの名前を呼んでいる奴らがいる。


 うるさいな、と思いつつも、嬉しいなとも感じながら、オレは意識を手放した。


読者の応援が作者にとって最上の栄養剤になります。


感想、ツッコミ、キャラクター推しの報告、このキャラの描写を増やしてほしい増やせこの野郎などの声、心よりお待ちしております。


感想が増えても返信いたしますので、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ