第53話「爆ぜた化け物」
巨大な剣によって化け物は貫かれ、その背から刀身が生えていた。
だが、そんな状態に陥ってもなお、化け物の口元には笑みが浮かぶ。
再生は始まり順次身体の形状は元に戻っているが、ルールーの攻勢に完全に対処できているとは言いがたい。
なにより、誰かを守ることを捨てた分、ルールーは相手に攻撃の隙すら与えぬ火力を発揮することがたったの二手で分かったのだ。
このままルールーが攻勢を続け、この化け物が魔力の光によって完全に消滅するまで、何度でも殺していけば、終わるはずなのだ。
しかし、けれど、この化け物は笑みを浮かべて白い歯を剥き出しにしている。
ロングライフルに弾を込めながら、オレは状況を出来るだけ俯瞰しようと努める。
前にはルールーと辺境伯たちが、後ろにはオレたち冒険者と半獣人たちが控え、挟み込んでいる。
その状態でルールーから攻勢を、そして弓使いや弩使いたちが攻撃し、他の者たちは攻撃に巻き込まれぬように待機している。
ルールーは、化け物の顔を見て不機嫌そうに瞳を細め、杖をさらに振るった。
その動作の意味するところは皆、分かっている。
「爆ぜなさい!」
ルールーが叫び、化け物の胴体に突き刺さった剣が、光輝き、そして炸裂する。
「っ、ぉ………!?」
大量の短剣とは比べ物にならない爆風が、顔面に叩きつけられた。
まるで大砲の発砲音のような音が響き渡り、化け物の立っていた地点には、生き別れになった下半身だけが突っ立っている。
上半身は肉片となって上空へ吹き上げられ、どさどさと雨のように降り注ぐ。
不思議なことに血は降らなかったが、焼ける肉の臭いがした。
内側から爆ぜると同時に、高温にさらされ一瞬で焼肉になったのか、それともルールーがあのおぞましい化け物の血が降り注ぐのを良しとしなかったのか。
それは分からないが、事実として化け物は上半身を吹き飛ばされ、あの笑い声はもう聞こえなかった。
急に静かになった。
銃声もしないし、弓の弦がしなる音も、笑い声も、なにもしない。
ただ耳を済ませると、各々が呼吸している音がようやく聞こえる。
「…………終わった、のか?」
「さ、さすがにこうも吹き飛ばされちゃ、再生もできねえだろ……な、なぁ?」
「俺に話を振るんじゃねえよ。こんな化け物は専門外だぜ」
「だな……、やっぱ魔法使いはすげぇな」
どさどさ、と肉片があちこちに降り注ぐのを眺めながら、冒険者たちが肩から荷が下りたような表情で話はじめた。
オレはと言えば、その会話に参加しようかと思いながらも、始めてしまった装填作業を止めるのも面倒だから、鉛玉を銃口から槊杖を使ってガンガンと押し込んでやった。
たしかに終わったように見えた。
上半身を丸ごと吹き飛ばされた化け物は、再生していない。
飛び散った肉片は無造作に転がっていて、それらが一箇所に集まりそうな気配もない。
ただ、いくつもの肉片に白い歯や牙のようなものが見えたのは、あまり心地良いものではなかった。
「ちくしょうめ、一時はどうなるかと思ったぜ」
「弓と弩使いは報酬倍額でいいだろ、これはよ。近距離勢はなにもしてねえじゃねえか」
弓使いがヴァイキング風の男に言えば、ヴァイキングはむっとして言い返す。
「なにを言ってやがる。騎兵を前にしてお前は俺の後ろに隠れてたじゃねえかこいつ」
「手元に盾がなかっただけだっつーの。だいたいお前―――ぷぎっ」
「………へ?」
ごりごり、と変な音がした。
嫌な予感は予感ではすまされない。
弓使いの頭に、肉片がどさりと噛み付いていた。