第42話「冒険者たちを待ちながら」
ルールーからの羊皮紙を持っているのは、三人だけだ。
オレはもちろん、冒険者として『彷徨い猫の囁き亭』にほぼ常駐しているエアメルに、教え子のリン。
三人とも読み書きが出来るし、こうした魔法のアイテムは永続的でなければそこまで高価ではない。
それにこの羊皮紙は、なにか書き込まれるとパソコンのチャットみたいに音が鳴って青白くぼうっと光る。
音といってもそんなに大きなものではないが、聞き間違いようのない音というわけで、今回は金槌でフライパンをぶったく音が三回。
大音量にすると迷惑なので、ほどほどの音量にしてもらってはいたはずだが、ルールーのことだからどうだなっているやら。
そんな不安を頭に浮かべながら、オレは火薬箱を抱えて道を歩く。
日常的に隊商やらなにやらがあっちこっちへ行き来する道なので、当然馬糞があるわけだが、馬糞程度数ヶ月するとどうでもよくなる。
最初はなんか気になって土やらなにやら被せたりしてみたが、どっちにしろ馬糞の追加がくるし、土被せても踏みしめられたら意味がない。
第一、蹄鉄屋なんて仕事の助手をしているのだ。
馬糞との付き合いなど慣れるに決まっている。
いやもう一体、オレが馬糞を何回踏んだことか。
まあ、魔法使いたちが一時期ここら一体を支配していた時、衛生環境が気に入らなくてかのチート国家、ローマ染みたインフラ整備したこともあって、さすがに人糞やらなにやらがそこら辺に散らばっているということはなく、どこぞのパリとかパリ住みの住民が二階に住んでいるどこかの国の不幸な通行人みたいに、いきなり空から人間の言葉にしたくないようなものを頭から浴びるなどということにはならないですんでいるし、これからも味わうこともないだろう。
魔法使いたちの一部はゴーレムなどを使役して、過去の時代に築いたインフラの維持・点検を今でも仕事にしているという。
というのも、あの聖王アルフレートが魔法使いたちの排斥に反対し、アルフレートが率いていたパーティーにも魔法使いがいたからだとか。
で、ほぼ公職から追放された魔法使い達が流れたのが、地味だが大事なインフラ業と冒険者、そして魔法使いたちの知識の保護業務だとか。
ルールーはあれでも公職追放がある程度緩和された後に公職につくことができたらしく、今も公職兼知識の保護業務を行っている。
あんなのでも公職につけるのだから、国の選定が滅茶苦茶に緩いか適当か、はたまた朝寝坊常習犯のルールーが爪を隠しているだけなのか。
まったくもって、北方の辺境住みのドワーフには分からないことばかりだ。
「さってさってと……なにするにも、目の前の壁を超えないとな……」
『彷徨い猫の囁き亭』の前に着き、火薬箱を置いてその上に座り込み、オレは待つ。
この日の為に準備してきたといっても、失敗したら失敗したで、失敗したという実績が残る。
そうなると余程の温情持ちかお人よしか、あるいは物好きでなければオレなんかを抱え込もうとはしないだろう。
転生者といったって、乗り出し一番が失敗というのではその能力に疑問符がつく。
一度ついてしまった疑問符を取り消すには成功が必要なのだが、はてさて、この世界で見捨てられて再起できるかどうか。
なんだかんだ言っても、成り上がりだとか大成だとか、そういう言葉が頭の隅でチラついてくる。
偉くなって金を貰って、それで好きなことをするわけだ。
好きなことを仕事にできれば最高なのだが、そんな幸運がオレに巡ってくるのかは分からない。
運がよければ、巡りがよければ、なんとかなりそうなんだがなぁ。
「エアメル曰く、悪運の星の下に生まれてるらしいからなぁ……」
呟きながら、オレは冒険者たちやらを待つ。
なんとか待ちながらではなく、冒険者たちを待ちながら。
いやいや、ゴドーのように来なかったらどうするんだよと、ちょっとだけオレは思ったりした。
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