第41話「貴族の入場と民兵の集合」
タウリカにスクルジオ率いる竜騎兵が入場してきたのを知ったのは、朝早く。
といっても、オレは別に誰かに教えられたわけでもない。
アイフェルと仕事の準備をしていたら、完全装備の騎兵がぞろぞろとやって来たのだ。
胸甲に加えて青に染め上げられた揃いの服を着込み、サーベルや拳銃を持っているだけでなく、槍といった嵩張るものを運ぶ馬車まで付いている。
といっても、それは想定内だった。重装の騎兵を運用するに当たっては、騎兵それだけで済むわけがない。
馬の世話をする者、武具を保管する馬車、鎧や武器を修理する職人に、奉公に出てきている子供も最悪いるだろうと思っていたのだ。
全身鎧ではなく、重く分厚く作った胸部のみを覆う装甲―――胸甲。
槍を携え全身鎧に身を包んだ騎兵の後継であり、防御範囲が全身鎧よりも少ないが、単純な防具の厚さはかなり向上している。
頭と胸甲だけに鎧を着込む方式になったため、視界が遮られたり動きが鈍化したりというのもない。
専門化された戦士階級である騎士が、近代化についていこうとした形の一つだろうなとオレは思う。
槍もやたら重く長い金属製のものではなく、穂先のみ金属で柄は木製のものが馬車にずらっと積まれていた。
長さは軽く二メートル以上はある。射撃武器以外の武器で、あのリーチの長さに対抗できるものはないだろう。
「………五〇騎はいるって話だったんだけどな」
「たしかに。いつものスクルジオの騎兵と様子が違う」
「二〇ちょいとくらいか? 結構少ないよな親方」
「コウは頭空っぽ?」
「そこじゃないの?」
「スクルジオの騎兵にしては覇気がない。状態が良くないように見える。馬も大人しすぎる。なにかよくない感じがする」
アイフェルの言葉を受け、ぞろぞろと辺境伯の屋敷へ向かっていく騎兵達をもう一度良く見る。
整った武具と服装に、髭を生やしているものはしっかりと油で固めたりしている。貴族かそれに類する人に見えるだけだ。
馬も人も、調子が悪そうだとか状態が悪そうには見えなかった。
ただ、騎兵よりもおれは隊列の一番後ろにいた馬車に目がいった。
見た目はただの馬車だし、乗り込んでいるのも御者と騎兵隊向けの品々だったけども、そこにぽつりと一人の女性らしき影が見えたのだ。
従軍娼婦かなんかにしては派手さに欠け、誰かの妻だとしたら補給品と一緒に乗せるわけがない。
でもそんな疑問より先に、おれは嫌な感じがした。
その馬車が変だとか、そういうわけじゃない。理屈じゃない、直感的なものだ。
仄暗い雲を遠くに見て、雨の予感がするような、そんな漠然とした直感だ。なにかよくない感じがする。
「………とにかく、準備しないと」
「ここは任せていい。コウはコウのために頑張ってきて」
「ありがと親方。愛してるぜ」
「世辞はいいから行って」
ぷいっと炉に顔を向けるアイフェル。
その横顔が少しばかり赤かったのは見間違いだろうか。
まあ、オレなんかに惚れる理由がないよなと思いながら、オレは仕事道具を畳んで家へ戻った。
―――
家といっても、いつもの廃教会。不健康そうな地下暮らしである。
とはいえ毎日しっかりと外出して身体を動かし太陽の光を浴びているし、オレがここに来てから換気と掃除が定期的に行われているので、実際はそこまで不健康ではないのだが、何にしたってやや湿っぽいのだけはなんともならなかったわけだ。
今日のルールーは日向ぼっこをしに行っているらしく、中には誰もいなかった。
オレはルールーから購入しておいた簡易魔法伝達術式がかかっている羊皮紙を引っつかみ、特殊なインクの入ったインク壷の封を開け、その紙面に一言書きなぐる。なにかしらの装飾も必要ない、ただの一言だけ。
『集合せよ』
誰にも、どの種族にも読めるように、大きくしっかりとした文字で書く。
なぜ集合するのか、集合するときはどういう意味なのか、それは事前に伝えてある。
武器を持って、各々がそれぞれ覚悟を決めて、戦うために集合せよと。
これは、そういう言葉だ。
オレ自身も覚悟を決めて、武器を身につけて装備を整える。
樽砲は別所に保管してあるため、オレが持っていくのは火薬箱だけでいい。
肩からロングライフルを下げ、腰には剣を吊るし、両手で火薬箱を抱えながら、オレは『彷徨い猫の囁き亭』へと足を向けのだった。
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