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第32話「ラッキースケベはアンラッキー」

「………解せぬ」



 赤く腫れ上がった頬をさすりながら、日が傾いたタウリカの道をオレはとぼとぼと歩いている。

 酔っ払ったファロイドは猫みたいなもんだと、以前に森番をしているエルフから聞いていたが、本当だった。

 あの後、エアメルは対して痛くもないパンチやらなにやらでポカポカと殴ってきて、一方的な喧嘩は終わったのだ。いくらドワーフが丈夫だからといっても、数分間ポカポカ馬乗りで殴られ続ければ頬も腫れるというものだ。



「ああ、樽の件は明日でいいか……今からじゃ機嫌損ねるだけそうだし、資金調達はシェリダンのおっさんに全部放り投げて、あとはまあ、樽砲用の火薬と弾丸の配分か。ある分だけでなんとかしないと」



 ぶつぶつ、と呟きながらオレは火縄銃士組合から送られてきた火薬と、ある分の弾丸の数を重ねて考える。

 火薬はそこそこあるのに対して、弾丸はそもそもがライフル用のものなので、大砲で使うとなると支障が出る。丸弾をたくさん作って散弾にする必要がある。

 しかし、散弾として使うには丸弾の数がやや足りない。


 釘やらなにやら、適当な鉄器を代わりにつめるしかないだろう。

 アイフェルや他の鍛冶屋にある屑鉄を買い取ってしまうのもいいかもしれない。それをぶった切って小粒にして敷き詰めるだけで結構違うはずだ大砲でぶっぱなして当たったら痛そうなものならなんだって使えるから、この際、フォークでもナイフでもなんだっていい。

 とはいえ、それで本当に勝てるかどうかと言えば、正直な話、きついだろう。


 馬とあさわって的がでかい、だから簡単だと言う話なら、騎兵は機関銃が現れる前に絶滅していたはずだ。それでも騎兵が生きながらえていたのは、一重に一分間に数百発の銃弾を発射しなければ突撃を粉砕できないからだ。

 的確なタイミングで投入された騎兵を阻止できる武器、それが機関銃だった。逆を言えば、機関銃がないのならば騎兵の脅威は存在し続ける。それを迎撃する為に、迎撃専用の布陣すらある。

 そんな敵の突撃を止めるには、どうすればいいか?

 オレはそれに頭を悩ませていた。



「………とりあえず、飯食って寝よう。煮詰まったら寝るのが一番いい……考えもまとまるだろ」



 廃教会への道のりで、固い麦パンを二つ、収穫した作物のごった煮となったスープを二人分買っていく。あのルールーが一人で晩御飯など作っているわけがないのだから、こんな時でも飯は買わねばなるまい。

 そんなこんなでオレは廃教会に帰還し、足取りも重く地下室の扉をノックもせずに開けたのだった。



「ただいまぁ~……あぁ~、疲れたもう、くたくただぜぇー」


「あ、え、コウ?」


「ただいまルー……ルー?」



 扉を閉めて、オレはふっと振り返る。

 流れるような黒髪が、乳白色の肌の上を滑る。凹凸のすくない、けれど女性らしい滑らかな曲線。

 力仕事とは縁のなさそうな細い二の腕、鍛えられず筋肉もついていなさそうな、しかし程よく柔らかそうな太股。

 そして掌で包んでしまえそうな慎ましく、なれども微かに盛り上がったそれ――、そう、それはちっぱい。至上の貧乳。

 

 新雪がふんわりと積もったような、儚い膨らみ。

 それが幼い少女のものならば発展途上だが、これはこれで完成されてしまっている。

 だが、それがいい。



「……………」


「……………」


「………Oh」



 思わずルールーの胸を見つめながら グッ! とサムズアップするオレ。

 自分でもさすがに紳士すぎる反応だったと思った頃には時すでに時間切れである。

 困惑するような表情だったルールーの顔が、一転して無表情に、そして絶対零度を感じさせる微笑に変わる。


 

「………コウ?」


「ハイ」


「………覚悟、できてるんでしょうね?」


「お命だけは堪忍してつかあさい」


「ええ、それはもちろん。魔法使いは身内には優しいですからね」



 そう言いながらルールーの右手に青白い光がぼうっと集まり、ざわざわと肌が粟立つ。

 これから先、なにが起こるのか確認するのも怖いので、オレは素早く持っているパンとスープを床に置いてから、ぎゅっと目を閉じて身体を強張らせた。


 そして次の瞬間、巨大なマットレスで思いっきりぶったたかれたような衝撃とともにオレの身体は一瞬宙を舞い、そのまま後ろの壁に叩きつけられ、ごふっ、と肺の中の空気が叩きだされる。

 息苦しさを感じるよりもさきに、オレはそのまま倒れ伏し、床の冷たさを味わいながら静かに暗闇に意識を手放したのであった。


 いやあ、ドワーフって頑丈だなぁ。

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