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第30話「魔法使いについて(下)」


「結果として、《レグス・マグナ》はベルツァール全土を力によって支配した。だがそのような強権的国家が長続きするわけもない。

 ベルツァールの統一を掲げる聖王アルフレート率いる多種族融和政策を掲げた連合軍が編成されると、各地で反乱が勃発した。魔法使いの分派の中にも聖王アルフレート側につく者や、中立を宣言する者たちもいたが、多くの場合それらは殺された。これが《青色の大粛清》である。占術や星読たちは特に被害を受け、少なくない数の生き残りが連合軍へと加わった。

 魔法使いの一極化を掲げた《レグス・マグナ》は、連合軍と死力を尽くして戦った。ベルツァール統一の過程においてもっとも血が流れた『レグス・マグナの解体』が起きたのである。


 《レグス・マグナ》の過激な魔法使いたちは一人残らず死滅し、その秘術も喪われた。

 アルフレート側についた魔法使いたちは、魔法使いたちの研究を律し、支援、監督する『魔法協会』を設立。

 以後、魔法使いはベルツァールの多種族たちと共同路線をとっている」



 まあ、つまり、先鋭化した魔法使いたちは滅茶苦茶強い過激派集団であったと。

 コボルドを尋問するのにさらっと拷問術を使っちゃって、なにを間違えたのか理解できないという常人には理解不能な反応も頷けるというものだ。

 そしてこの歴史書の終わりには、こうも書かれている。



「手法こそ暴力によって支配するものであったが、技術的にも文明的にも他国を遥かに凌駕する魔法国家『レグス・マグナ』の存在は認めなければならない。この魔法国家が母体の一つにあるため、今のベルツァールは種族を問わずに生命の権利が重要視され、各種建造物や道路整備、上下水道などの設備、整備技術が整っているのだから」



 ―――と。

 故に、現在主流でもあり、陰謀論者たちの流行でもある《レグス・マグナ》が諸悪の根源である、もしくは、あった、とする風潮は誤りである、と。

 ただでさえ面倒くさそうな連中である魔法使いたちが、ベルツァール統一後も偏見によってあれこれ言われていたのだとすれば、対外的な対応が固くなっていくのもしかたがない。そのせいで魔法使いたちは今でも、魔法使いであるというだけで、扱いづらく面倒臭く高慢ちきで鼻高々とかいうレッテルを貼られているのだろう。


 この『ベルツァールにおける魔法使い国家』というのは、お前あきらかに転生者だろって名前のササキ・ジロウ著で、今から三十年前のものだ。ベルツァール統一が起ったのがエアメルの話からすると二百年前で、そこからさらに年月が経った百七〇年後でも偏見が根強かったようだ。

 かつて栄華を誇った暴君国家の末裔、と言っては悪いかもしれないが、目の前の天然お姉さん魔法使いがその一人だと考えると、没落したのもしかたがないように思えてくるのはなぜだろうか。



「コウはなじみないから分からないと思いますけど、蒸留して抽出するのってかなりの量の花を取ってこなきゃならないんですよ? 私は故あってゴーレムとかが使えないので、自分でやらなきゃならないんですからね? それに蒸留に使う器具だって使うだけでもお金がかかりますし、使えば使ったであちこち交換しなきゃならない部品がないか確認しなくてはいけませんし……」


「わ、分かったから……交換用の部品とかはアイフェルにオレの方から言っておくし、代金だって半分くらいは支払うって!」


「むぅ……絶対に絶対ですかぁ?」



 唇を尖らせてそう言うルールーは普通に可愛い。

 ので、なぜこれほどのお姉さんの中身がこんなんなんだろうと思いながら、オレは返す。



「絶対の絶対だって、たぶんな」


「たぶんってなんですか! 私だって隣村の連続失踪事件とか、これでも調べたり警戒しなきゃならないことがいっぱいあるんですからね!」


「あー、はいはい……。そうですか、そうでしたねー。たぶんまた野犬とか狼の襲撃だと思いますけどねー」


「またそうやってコウははぐらかそうとするんです! そもそもコウは―――」



 以下、省略。

 なぜ省略するのかをここに記す必要はないだろう。誰もお母さんに怒られている男の子みたいな情景を延々と見たくない。特にお母さんに親孝行できてない人間は、とくにそうだと思う。

 なのでカットだ。ディレクターズカット盤でも再収録はない。する必要性を感じない。


 ついでに言えば、このあとルールーの説教は二時間ほど続いて、オレの精神は色んな意味でボロボロになった。

 やたら愚痴っぽくて話を蒸し返してくるので終わりが見えず、二時間が五時間に感じられたほどである。

 とはいえ、とりあえず最低限の協力を得られるということで話は落ち着いた。


 その代わりとして、使った香水を二倍にして返却すること、向こう半年は家事はすべてオレが担当する、ということが条件だったが、それもオレの命と天秤にかければまだ軽いものだ。

 この世界で死んだとき、また次があるかなんて、オレには皆目検討がつかない。

 だから前の世界よりも必死で、オレはこの世界で生き残っていくつもりだ。

 そのために、オレはルールーをなだめてから次の協力者のもとへと足を進めていた。


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