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第29話「魔法使いについて(上)」


 さて、オレは自分がなかなかに卑怯者であると自認しているため、使えるものは全部使う性質だ。

 そういうわけでヨルとエアメルに冒険者などの人員と装備の調達を任せておき、オレ自身はシェリダンに協力は無理だろうといわれたルールーのところへと向かった。

 なぜかといえば、こういうファンタジー世界において、魔法使いというやつは大抵、とんでもないバ火力の持ち主かチートかなんかである確立が高いからである。強い奴は味方にしておくが吉だ。

 なのでオレは今朝方に酒臭さを誤魔化すためだけに香水をどかっと使われたせいで、頬をふくらませながら不機嫌そうにしている、魔法使いルールー・オー・サームの機嫌をなんとかして治してもらおうとあれこれと手段を講じている。

 こんなこと学校でならわなかった! とオレはもう発狂してしまいたい。



「あのー……だからね、あの香水はあとでなんとか元の分量まで戻すし洗濯当番も食事当番も、当分はオレでいいからね、機嫌直してよルールーさん」


「コウってばこの部屋にあるものの価値を分かっていないんです。私の役職の重みとか偉さとか格とか、そういうの全然気にしてくれないんです……」



 ではわたくしがこっちの世界にやって来たとき、ここに存在していたあの汚部屋はいったいなんだったんだこの野郎。と、胸倉を引っつかんで服を引き裂いて身包み剥いで外に放り投げてやろうかとも一瞬思いはしたものの、接客業で培った忍耐力で堪える。

 そして冷静になって考えた。ルールーの薄い胸とか、すらっとしているけどたしかに柔らかくもある華奢な身体とかは、まあこの際どうだっていい。


 問題はこの魔法使いの頭の中に、魔法以外の人間生活水準に達するなにかがあるか否かの問題なのだ。

 オレはこの時、というか大分前にも何度か察していたのだ。

 衛兵たちや話の口々で聞く「これだから魔法使いは」という言葉の意味を。


 うだうだとなにか言っているルールーをぼけっと眺めながら、たぶんきっと聞く価値のない声を右から左へ受け流す。

 酷い対応だと抗議する方がいらっしゃるかもしれないが、それならオレの位置とちょっとでもいいからさらっと交代してほしい。外界との接触を避けてきた世間知らずがあれこれなんか言っているだけなので、マジで聞く意味がないということが分かるだろうから。



 そんなわけで、ルールーの愚痴かなんかを適当にスルーしながら、オレは「これだから魔法使いは」という言葉の意味を頭の中で再構成する。

 そもそもこの世界の魔法使いは、人であって人の理を外れた異端の存在なのだ。

 とある歴史書曰く、魔法使いとは、



「《澱み》との戦い、あるいは多種族との戦いにおいて人間が脆弱であり、それを補う為に賢人の術を研究し解析し、それを手にすることで実現した世の理を捻じ曲げる法が魔法である。魔法を専門的に研究、行使する者は種族に関わりなく魔法使いであり、大抵の場合、禁忌に触れたとして元種族を追われ、魔法使いとしての道を歩むことになる」



 とのことだ。

 つまり魔法使いというのは役職名ではなく、魔法を使って魔法を極めていく多種族集団だということ。

 そしてこの歴史書には続けてこう綴られている。



「多くの魔法使いはその源流そのままに、自分たちは《賢人》の後継者であることを自任している。そのため魔法使いは、種族の垣根を越え探求する魔法使いこそが至高かつ神聖であるとしており、人格的に扱いづらいものが多い。この選民思想めいた教義のため、戦争において魔法使いたちは種族的に同属である人間どころか、エルフ相手にも引けをとらない戦闘能力と過激さ、残忍さを持つに至った。

 そうした源流と相容れない寛容な精神と友愛を解いた《白魔法派》は、教義を同じくする『教会』と手を取り合い、世俗化し、今ではこの白魔法と呼ばれていたものは『奇跡』と評されている。

 剣や弓矢など外敵と対抗するためのものは、得てして世に広まるものだが、魔法は魔法使いのみが独占すべきものであるとする魔法使いの考えと、人間や他種族にある魔法使いへの偏見と畏怖から、普及するに到ってはいない」



 この行を読んだオレは、そりゃ驚いたものだった。

 ルールー・オー・サームがタウリカの住人から、世にも珍しい天然記念物扱いされる理由が、ようやく分かったというものだ。

 なぜなら、魔法使いというのは本来であれば扱いづらく、差別主義的で、高慢ちきでその上そこそこ以上に強い面倒くさい奴らなのだから、天然かつほとんどニートで柔和なルールーは天然記念物として飾り立てられていてもおかしくはない。

 で、このとある歴史書の名前は、『ベルツァールにおける魔法使い国家』という本で、結末の章にはこんなことも書いてあった。



「魔法使いたちはかつて、今のベルツァールの一部であった魔法国家レグス・マグナなど独立した国家を持っていたが、生贄行為を正当化し自らが神聖であるとする教義は敵対する者も多く、その中の一人が後の聖王アルフレートである。結果としてアルフレートたち《旅の仲間》が起こした戦乱の中で、魔法国家は解体された。

 《レグス・マグナ》は偉大なる魔法使い七名による七人委員会を頂点とする国家であり、ノヴゴールへの遠征と侵略行為、人や異種族を攫い供物とするなど、多種族への配慮がまったくといっていいほど存在しない国家であった。これほど流血を是とした国は、暴君独裁の治世であればありえたかもしれないが、この魔法国家は曲がりなりにも議会政治によるところであったこともまた、明記しておく必要がある。

 七人委員会は古くより、魔法使いである我らは賢人の後継者、として、この世を司る者であるとしてきたため、魔法使いとそれ以外という差別思考が極端化していったのだ」




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