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第28話おまけ「辺境伯」

タウリカ辺境伯とシンくんの短いカットになります。

時系列としてはコウたちが屋敷から去った後になります。

「……良かったのですか、御領主」



 客人たちを馬車で送り返してから少しして、シンは書斎で読書に耽るシェリダンに唐突に言った。

 熊のような体躯のシェリダンが床から天井までを覆う本棚の前で、本を開いて背中を屈めて目を凝らしているのは、その巨体とのギャップ故か、どことなく愛嬌がある。


 

「なにがかね、シンよ」


「せんせ―――いえ、あの転生者のドワーフの件です。御領主であれば事を穏便に処理することも可能であったと思いますが。なにより、スクルジオ卿は貴族社交界の評判が悪いだけで、騎士道に篤い方です。ただ単に社交界嫌いというだけで、話は出来る男かと」


「かも、しれぬな」


「では何故――」


「我輩の領地に転生者が現れるのは久方ぶりのこと。そして前の転生者は(たわ)けも戯けの大(うつ)けであった。廃墟とはいえ教会をあろうことに吹き飛ばし、飛び散った瓦礫で死傷者も出たのだ。王都のニルベーヌ卿も言っておっただろう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とな」


「……ロウワラの件、でしょうか」


「然り」



 太い首を縦に振り、シェリダンは読んでいた本を棚に戻した。



「鉱山都市ロウワラは暗銀という特殊な合金の精製を目的に、多種多様な知識層が集まり、それらが労働者を、そして農民たちを動かしていた。とある転生者がもたらした特殊な方法で、肥料の大量生産も可能であった。しかし、それをすべて破壊し、二万人の民のほとんどを破滅させたのもまた、転生者であった。いくらイトラフォーラ(外なる血)王朝の始祖、聖王と同じ出自といえども、災厄と呼ぶに相応しい事を成しえ、お咎めなしなどとはいかんのだ」


「……承知しています」


「ならば分かっているはずだ、シンよ。我輩はこの程度の事を乗り越えられぬ転生者など、求めておらぬ。勝てば良し、負ければどこへなりとでも放逐するだけのこと。あとは病で死のうが野犬に食われようが、知ったことではない」


「しかし――」


「くどい。お前も我輩の娘を本気で娶る気でいるのであれば、もっと器量を持て。我輩がお前を奴隷商の馬車から救い出したあの時の恩を果たしたいのなら、もっと強くなれ。耳に心地よい言葉ばかりが誠ではないのだ。清濁合わせ皿ごと飲み込め。いつまでも純粋な青年でいたいのであれば、我輩の娘とは関わらぬほうが良かろう」


 有無を言わさぬ口調に、シンは言葉を飲み込む。

 ()()()()()()()、という私情だけで行動するな、とシェリダンは言っている。ベルツァールの門番として長くこの地を収めてきた辺境伯は、()()()()()()、と。

 なら他に手はあるのかと考えるが、今のシンには悔しそうに唇を噛むことしかできなかった。

 そんなシンを尻目に、シェリダンは口元を緩めながら野太い声を吐き出していく。

 

「しかし、ロウワラのドグヌールの愛娘のアイフェルと、あのルールーの下に収まってくれたのは良きことのようだわい。腐っても技術屋の末裔……、本来であれば倒れるだけの理屈を支えなおし、なおかつモノにしてしまうとはな」


「……アイフェル女史は本来、蹄鉄屋で収まる器ではありませんから」


「その器が蹄鉄屋を望んでおるのだ。まあ、いずれ相応しい器に収まるよう我輩も思案しておるが」


「下手に刺激すると厄介この上ないお方です。アイフェル女史も、そしてルールー・オー・サームも」


「それが分かっているのなら良い。段取りはシン、お前と娘に任せる。二人ともしっかり勉強しなさい」


「御意のままに」



 深く礼をし、シンは部屋を去る。

 歯車は回り続ける。歯車の知らぬうちに、知らぬところで。

 その中から歯車を取り出すのがどれほど骨の折れることか、シンは噛み締めるしかなかった。 

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