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第18話「冒険者とやら」


 で、ギルドのメンバーのアイフェル曰く、その一般的なギルドと毛色が違うのが、盗賊ギルドと、冒険者ギルドなのだそうだ。本来、組合ギルドとは職人間の権益の保護や新規参入の防止、技術の継承と秘匿といったもろもろのことを行い、その活動地域での産業を保護して運営する包括的な仕組みのことだが、盗賊ギルドと冒険者ギルドはそうした種別のものではないのだと。

 オレはそれについて今からルールーに解説してもらおうと思っている。



「ええ、本来なら組合ギルドというのはそういうものなんですよ。ただ冒険者と盗賊だけは違います。もともと冒険者はただの荒れくれ者たちの集まりだったんです。酒場にたむろしている兵役上がりのつわものや、盗賊ギルドからあぶれた探索者など、いろいろな人材がいました。盗賊ギルドは名前こそ盗賊ですが、実態は密偵の兵集団ですから。けれどそんな彼らをまとめあげようという人なんて、いなかったんです」



 そんなあぶれた野郎どもすら可哀想に思っているのか、ルールーの表情が曇る。

 やけに感情豊かなのもルールーのいいところだ。もしかしたらそれが悪いところにもなっているのかもしれないが。

 


「まあ、ようするに武装した不良たちで、やっかいこの上ない存在だろうしなぁ」


「はい。ただ、そうした人らも生きるにはお金がいるわけで、その地域の有力者たちから雇い入れられて町の警備や周辺の偵察、危険な場所への探索などを行っていたんです。彼らは時として死ぬような目にもあいますし、実際に死ぬ者もいましたが、それに対する保障などはなかったんです」


「うっわぁ……ブラックだな」



 つまり腕一本ちょん切れても義手や手術は自費でやらなきゃならん、ってことである。

 そんな労働環境ならまだ従軍司祭やらがついてきてくれる、遠征軍の方がマシだろう。



「労働環境が極めて悪い、という意味ならその通りです。それで、そうした彼らをまとめあげたのが、初代ベルツァール王国国王、聖王アルフレートですね。彼がいなければ冒険者たちが寄り集まって内戦でも始まっていたかもしれません」


「なにそれこわい……」



 曰く、彼はそうした荒れくれ者たちを"冒険者"と呼んで、彼らの悲惨な現状を強く訴えかけ、数々のすったもんだの末についに冒険者ギルドを設立したのだそうだ。ベルツァールの統一のときの被害がばかにならないもんで、戦後復興に彼らを使いたかった、って説もあるらしい。

 ともかく王は宿、酒場、賭場と依頼の受注を取り扱う複合施設を建設し、王国の認可を受けた職員を配置。聖王の親友の魔法使いが考え出したというさまざまな仕組みを採用し、冒険者たちそれぞれの社会貢献度、技量を元に判定して等級を与え、依頼料の適正価格をそれぞれに設けたのだという。

 同時に冒険者ギルドは、盗賊ギルドのように互助組合としての役割もあり、相互扶助、情報収集の拠点として今日まで機能しているのだとか。

 なお肝心のルールー・オー・サームは一時期冒険者をしていたことがあるが、今は"魔法協会"という魔法使いたちのギルドというべきか、監督機関に所属しているため、現在の冒険者ギルドがどんな様子なのかは分からないそうだ。



「でもコウはギルドカードを作ってあるんですよね? それがあるなら、すぐにでも依頼は受けられます。装備は揃ったようですし、覚悟ができたら安くても安全な仕事を選んで受けてみるのもいいですね」


「冒険者で安全な仕事って………ペット探しとか?」


「猫とか犬ならまだいいですね、害獣駆除になるとよく新参が狼に囲まれて食べられちゃってますし、ゴブリンも狡猾で残忍なので。そういえば、夜警の仕事は楽だと大昔に聞きました。拘束時間は長いですが、なにもない日でもきちんとお金は貰えるし、なにかあればその分だけ手当てがでるのだとか。まあ、私はやったことないんですけどね」



 えへへ、と恥ずかしげにへにゃっとした笑みを浮かべるルールーは、貰いもののカップに注いだハーブティーをゆっくりと飲み始める。

 ルールー・オー・サームは働かない。働いているのかもしれないが、あまり外に出たがらない。それでも最低限、魔法協会からの仕送りと貰いもので生きていける。仕送りが期日通りに届くことはマレなので、たまに干からびそうになっているのだが。

 不思議に思って青空教室で一番賢いであろうアティアの従者シンに話を聞くと、



「ルールー・オー・サームは古くからこのタウリカにある《監視者ウォッチャー》という役職の魔法使いですから、それも仕方ないのです。《監視者ウォッチャー》は代々、ルールー・オー・サームのように大人しく問題を起こさない魔法使いが歴任してきました。それにはなにかしらの意味があるのでしょう。僕にはその理由は分かりませんが」



 曰く、この無警戒かつ人の良い魔法使いはその昔、ベルツァール王国が、現在の属州ノヴゴールに侵攻した際に「ベルツァール本国へノヴゴールの密偵が侵入することを監視する」ために設けられた《監視者ウォッチャー》という役職についているのだそうだ。

 その後、ノヴゴールは北部領連合としてベルツァール王国の属国となり戦乱が終結すると、《監視者ウォッチャー》はその監視の任よりも名誉称号としての意味合いが強くなっていき、現在では能力のある者たちに与えられる二つ名と同じ扱いになっているのだとか。

 現《監視者ウォッチャー》のルールー・オー・サームは、昔は栄えある宮廷近衛魔法使いの一人で、王太子殿下を刺客の手から守る際に手傷を負い、療養と隠居をかねてその役職を国王から賜ったのだそうだ。

 ―――にわかに信じがたい話である。



「……じゃあ、その夜警って仕事をやってみっか。あとは冒険者の宿で、いろいろ聞いてみて、準備してっと」


「前線職と後衛職では準備する者もまったくと言っていいほど違いますからねぇ。魔法使いなら触媒と、魔力増強のアイテムなどになるんですが」


「すっげぇ大雑把だな……。そうだなぁ、TRPG的にはまず背負い袋に水袋、毛布に松明と火口箱、丈夫なロープと小さいナイフにくさびかな」



 オレは羊皮紙に順々にメモを取る。

 それらはかつて日本で趣味の一つとしていたTRPGの中で、所謂"冒険者セット"と呼ばれていたものだ。水袋は水だけでなく薬を入れることもできるし、毛布は寒さを凌ぐためにいる。松明は暗闇を照らすために必要で、火口箱は松明に火を点けるため以外にも役に立つし、小さなナイフは薬草を刻んだりロープを切るなど、色んなことに使える。

 くさびはまあ、これも必要だ。即席テントを使ったり、ものを固定するときに使えるのだ。



「あとは三フィート棒かな……ああでも、オレの身長が今はちっとばかし低くなってるから、あれを持ち歩くのは無理、か……」


「ふふふ、ではコウが見事仕事を果たした暁には、魔法の加護が施された指輪をプレゼントしますよ。私が許されている範囲で、最高の加護をかけてあげましょう」


「それは嬉しいよ。ありがとさん」


「いえいえ、これは当然の行いです。なんてったって、私はコウの保護者なんですからね」



 えっへん、と無い胸を張るルールーにはいはいと相槌を打ちながら、オレは席を立つ。



「さっそく今から行ってくるんですか?」


「ああ、この時間ならまだ飲んだくれ連中がまだ素面だからな。日が沈むとあいつら構わず飲み始めるからなぁ……あ、ルールーも来る?」


「ちょっと私は遠慮しておきます。あそこ、お酒の匂いもそうなんですけど、ファロイドのパイプ草の匂いがすごくって」


「あー……まあ、たしかに」



 いってらっしゃい、と言うルールーに、オレは剣帯を付けて自分の剣を腰に吊るし、ロングライフルに取り付けたスリングを手にタウリカ唯一の冒険者の店へと向かった。

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