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第15話「先生と呼ばれて女の子に囲まれてますがツライいです」

 おお、神よ。


 お前なんてことしてくれてんだてめぇ、いるなら空から降りてきて腹割って話しろ。

 と、オレは教会跡地の一階、天井が崩落してそこから覗く青空を見上げながら、全力で神的存在に喧嘩を売るべく中指をおったてたポーズをとりながら神に向かって「くそくらえ」と心の中で罵っていた。


 雨風にさらされあちこちボロっちいとはいえ、元々が寒冷地の山岳に住む民族の建てた教会ということもあり、天井が壊れて鐘塔も半分なくなっている有様なのにタウリカにやってくる嵐にも耐えた記録のあるこの教会跡地で、オレはルールーの隣で「青空教室」に集まった面々を端から端まで見る。


 うん、やっぱりおかしい。

 なにがって男女比率が。あと非人間率が。

 今回開いた教室に集まった生徒は総計で十七人。そのうちの十三人が女性。で全体のうち十五人が非人間種である。


 どーいうこったよ神様。

 いやどうもこうも、オレもドワーフなんですがね。

 毎日しっかり髭剃ってるから髭もないしで、たまに忘れそうになるけど。



「一応、領主様と教会長には許可をとってますので、噂が広まればもっと来ると思います」


「え、ルールーってそんなコネがあったの? つかなんでそんな簡単に領主様と教会長様に会えるのにオレと出会ったとき干からびそうになってたの?」


「ごっ、語弊のある言い方しないでください! 干からびそうになってませんっ! あれはお腹がすいて力がでなかっただけですっ!」



 例の身の丈ほどの長さがある杖で石の床をかつかつと突きながら赤面して頬を膨らませるルールーを見つつ、オレは笑みを浮かべ、再び長椅子に座っている生徒たちを見て、そのあと、ルールーから手渡された生徒一覧を見る。

 前列を右から見てもエルフの娘、猫耳少女、ファロイドという小人族の合法ロリ、ドワーフの褐色ロリと、見事に人間がいない。

 年齢も人間以外の種族毎に成人年齢が違うため、見た目と年齢のギャップが酷いものもいれば、ロリなのに三桁とかがあったりと皆さんてんでバラバラで、羊皮紙の上と現実の相違点が多すぎて頭がこんがらがりそうである。

 恐らくは普通の人の子は家での仕事や家事の手伝いが忙しく、こんなところに来る余裕はないのだろう。一方で人間以外の種族と言えば、成長するまでが遅い種族は子を守る文化が自然と出来上がっているため労働とは無縁だ。そうでない半獣人などは敵対するエルフの文化を見よう見まねでそうしているし、ファロイドに至っては好奇心が強くそもそもなにかに縛り付けることはファロイド自身にも出来やしない。文化とそれぞれの習慣が、こうしてはっきりと教室の比率で現れるってわけだ。

 というわけで、そんな状態で授業なんか始められるわけもなく、栄えあるコウの青空教室第一回目は各々の自己紹介で終了した。

 あとは帰るも自由な時間になった―――のだが。



「で、君たち四人はなぜにして居残っているんですかね?」



 ルールーがお昼寝タイムで裏の木陰に移動した後になっても、教会跡地の青空教室には四人の生徒が居残っていた。

 全員、最前列の長椅子に座って、じーっとこっちを見つめてきている。

 オレがどうするか拱いていると、灰色の毛並みの猫耳と尻尾を備えたちょっと露出の多い格好の半獣人の生徒、リンが手をあげる。

 髪の毛も頭から灰を被ったような色合いだけれど、眼だけがエメラルドのような綺麗で澄んだ緑色をしていて、ツルペタスレンダーで、とにかくちっちゃい。

 そしてとにかく落ち着きがない。


「はい、リンちゃんどうぞ」


「んー、にゃーはお昼だしお昼ごはんもらえないのかなーって残ってただけだよ? 先生、お昼まだー?」


「半獣族、しかも猫類の文化について先生はよく知りませんがともかく……この教室で給食はでません!!」


「あにゃーん……」


「わざとらしい悲しげな声をあげてもだめです」


「ふにゃん……バレてた」



 くしくし、と前髪を手で掻きながら言うリン。

 灰色の猫耳がぴくぴく動いて、尻尾がふわふわとあてどなく揺れている様などは、本当に日本で飼われている猫と変わらない。半獣族には種類があるとはいえ、猫系なら猫、犬系なら犬と、それぞれが動物の特徴を多く受け継いでいるから可愛げがある。

 体温も高そうで肌寒い夜に一緒に寝たら気持ち良いかもしれない。

 と、オレがぼんやり考えていると、リンの横に座っていた一人の少女がいきなり椅子の上に立ち上がる。びしっと指を向けながら、少女は高らかに、幼さの残る声でなぜか偉そうに言った。



「余がわざわざ足を運んでやったというのに、授業もなく自己紹介だけで終わらせるばかりか、昼飯も出せぬとかいかな了見か!」


「あっはい?」


「むぬぬぅ……なんだ、なぜなのだその反応は!? 余のことを知らぬとでもいうのか!!」


「いや知らねえし!?」


「ぬぐ、っぉぉ……!」



 あきらかに少女が出しちゃいけないような変な声を出しながら、なぜか偉そうな少女は立ったまま悶える。


 背中に長々と伸びた黒髪が白いワンピースの上でさらさらと滑り、意志の強そうなルビーのように赤い釣り眼がこちらを睨み、形のはっきりした眉が吊り上がる。

 白い肌の華奢な四肢とは裏腹に、ワンピースに包まれている胸とお尻は手元にある生徒名簿の年齢と吊り合わない。


 彼女は人間で、年齢は十四歳のはずだ。

 だがそのお胸はなんとも立派なものである。

 これがロリ巨乳ってやつか。


 でけぇ。

 すげぇ。

 これが十四歳とは信じられん。


「余は! 余はタウリカ辺境伯の娘! アティア・アウルウム・ウーヌス・ゲンツェンであるぞ! 知らんのか! いや知らんわけがない! 知っておるだろう! 知っているはずだ! そう、知らんわけがないだろう?!」


「え、いや初耳です」


「つまり!?」


「知らんです」


「んぐぅぅぅっ、ぬぁぁぁっ……!」



 再度、立ったまま悶える少女に呆然とするオレ。

 なんだこいつ。大丈夫なんだろうか。

 しかしここの領主様のお名前もオレは知らないわけで、もしかすると本当に領主様の娘さんかもしれない。

 けれど、無料のどこの馬の骨とも知れないドワーフの青空教室に、そんな高貴なお方なんかが来るものなのかしらん。


 俺がそんなこんなでドン引きしていると、アティアの隣でちょこんと椅子の上で正座していたジト目で覆い付きのローブを羽織った子が中性的な、落ち着いた声で言った。



「たしかに、そこの彼女はアティア・アウルウム・ウーヌス・ゲンツェンです、先生」


「あー、えーっと……君はたしか………えーっと」


「シンです。アティア・アウルウムの従者。種族は人」


「はぁ、なるほど。つまりアティアちゃんの御付の人ね」



 ふむふむ、と俺が一人で頷いていると、シンはローブの中から紐で首に吊るしている指輪を見せてきた。

 作りの細かいもので、ついでに言えばこちらの言葉できっちりと「タウリカの平定者、ウーヌス・ゲンツェンことタウリカ辺境伯家」と文字が掘り込まれている。

 アイフェルに聞いた話だと、この手のものは偽物を作って人目にさらすだけで極刑ものらしいので、これは本物なのだろう。

 俺が納得したのを察したのか、シンは知的に光る褐色の瞳でこちらを見つめながら言った。



「領主様からは、転生者らしき者がどのような男か見定めて来い、くれぐれも隠密になと、言われておりました。が、この通り我が主は目立つちたがりですので全てぶち壊しになったわけです。なのでまあ、他言無用でお願いします、先生」



 それからシンはぷいっと顔を逸らして、外から入ってきた蝶とじゃれあっているリンを指した。



「ついでに言えば、そこのリンはタウリカの森に住む半獣族の長の娘です。あんなんですが彼女の家はかなりの名家かつ武闘派なところですから、先生は変な噂が立たないようにしたほうがいいです。殴り込まれたら先生なんて即死ですからね」


「マジかよ」


「マジです。エルフとガチで戦争して対等に渡り合えるヒト型生物は、タウリカだと彼女の一族と、北夷の恵み手と呼ばれてる射手くらいなもんですよ」


「マジかよ……」



 猫耳少女がイエネコみたいな仕草で蝶とじゃれあっているのを横目に、俺とシンはお互い真顔で言った。

 その隣のアティアだけが頬をぷくーっと膨らませて気にくわなそうな表情をしており、シンの隣で静かに座っているコボルド――二足歩行する犬のような種族。もふもふ――の男の子はそんなアティアの行動ですっかり萎縮してぷるぷると震えている。

 


「あぁー……じゃあシンちゃん」


「くん、で、お願いします。僕は男です」


「え、あぁ? マジ? えっと、じゃあシンくん。オレが半年くらいタウリカにいて、仕事してたってのは知ってる?」


「そりゃルールー様から領主様に報告がきてましたので。……ああ、分かりました。先生は転生者だからこの世界の歴史、事情、常識などなどに疎いのですね。それを生徒であるはずの僕に補佐してほしいと」


「……シン、お前すごいな。心の中でも読めるのか?」


「まあ、こんなのが我が主なので必然的にそうなったまでのこと。特別な能力なんてありませんよ、僕には」



 隣でこんなの扱いされてふてくされているアティアを横目にしながら、シンは続ける。

 


「でも、そんな我が主でも主は主です。先生、あなたが主を害すならば、僕は領主様より授かっている本来の役目を果たさねばなりません。その点、お忘れなきようお願いします。先生は良い人そうなので、可能であれば殺したくありません」


「は、はい……分かりました。というか、先生は算数も文字も教えられるけど、まだここに来て半年だから分からないことだらけだから、シンくんが教えてくれると助かるな」


「ルールー様はあれはあれで多分お忙しいですからね。分かりました、では授業、とやらが終わったあとにやりましょう。報酬は……あぁ、我が主の昼飯でお願いします。今日は僕がなんとかしますので」



 肩を竦めながら苦笑するシン。

 オレはそれに黙って頷き、できるのであれば戦術指南書、あるいは兵法書が欲しいと言った。

 するとシンは「手配しておきます」と淡々と返した。



 シンはそれで話は終わりだと言わんばかりにアティアの手を取り、膨れ面のアティアに優しく抱き締める。

 おい、いきなりなんだそれは。

 それはもう、十四歳のアティアと十六歳のシンがやるにはなんか早すぎるような犯罪的なような、あきらかに恋人とかそういう思い人にやるような柔らかで、優しくて、自然な抱き締め方ですよこれは。


 まるで子供をあやすようにアティアの背中をさすってやるシンに対して、アティアは頬を少し赤らめながらぼそぼそと拗ねたような声を出す。



「むむぅ……シン、なんだか余が、かーなーりー、ないがしろにされているような気がするのだがー?」


「気のせいですアティア様。それよりもお昼御飯、どこかで都合いたしましょう。コウ先生はお忙しいようですから、僕がなんとかします」


「そうか……。まあ、それなら仕方ないな。このコウとやらにはシンがあとで余のことをきっちりと教え込んでおくのだぞ!」


「分かっております。―――それでは先生、僕らはこれで」



 あっはい、と生返事で二人のバカップルを見送るオレ。

 あれがタウリカの現領主の娘で、その従者がシンだとすると、シンはあのままアティアとねんごろになって従者からタウリカ辺境伯に大出世しちゃうのではないかとか良からぬことを考えているオレの前では、リンが蝶とじゃれあい、柴犬のようなもふもふとした毛並みのコボルドがうるうる御目々でこちらを見ている。

 いやコボルドくん、オレだってなんか教えたいけどなんかね、今のリア充っぷりを子供に見せ付けられてしまった今の精神力じゃあ、なんにも教える気にもならないからね?



「はい、それじゃ今日は終わり、解散!!」


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[良い点] ケモミミ大好き勢、狂喜の回。
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