第14話「外注しといたオレの武器です」
「オレが言ってたやつというと……」
「新式の発火機構のほいーるろっく? と、例の……じゃいろこーか? それに関する論文とライフリングってやつ? コウが言ってたのはたしかに的を射ていた。でもそれでどの程度なにが起きるか、という点が欠けてた。材質に関する知識も疎い。そこら辺を私が補強して、コウ名義で特許を取ってから、王都の火縄銃士組合に手紙で持ち掛けてみた」
お、っとオレは立ち上がりそうになるのをこらえてアイフェルに言う。
「さっすが親方。で、どうでした?」
「まず発火機構。これは各部の強度が虚弱で信頼性に欠ける。ただし煙と光がでないのはいいと。で、ライフリングってやつの方は最上級の褒め言葉を使ってある。装填にかなり時間がかかること以外、文句なしだって。どっちも作るのに手間がかかる点、そのせいで高価になるけど。はい、これ返事」
「よっしゃっ!!」
アイフェルから手渡された手紙を読み上げ、思わず、そして堪え切れずにオレ、立ち上がってガッツポーズ。
この世界では火薬はあっても火蜥蜴ことサラマンダーを引き付けるとして普及度は低いのだ。
なぜサラマンダーが黒色火薬にまとわりつくのかはいまだに解明されていないが、なにせ爆発物に火の精霊でもあるサラマンダーが接触したらどうなるか、中学校時代に理科の実験を真面目にやっていた人なら分かるであろう。もちろん爆発オチである。これを防ぐには火薬を貯蔵する箱や樽に一工夫するか、あるいは保存場所や仕方を工夫しなければならない。当然、金がかかる。
で、そんなこともあってこの世界で普及している銃は火縄銃なのだ。
火打石を使うフリントリック式というのもあるにはあるが、原材料を人間の支配地域だけでまかなって大量生産できるわけでもないため、構造的に命中率の高い火縄銃が現役なのだった。なにせ鉱山利権のほとんどはドワーフが握っている。人を介在させると最終的な価格が高くなるのはここでも同じだ。
それに銃自体も銃身内に螺旋状の溝の掘られていない、銃身はただの筒という、日本の戦国時代のような代物である。これはこれで筒に詰められればなんでもぶっぱなせるという利点もあるのだが、当然として命中精度は見込めない。
オレがそこに盛り込んだのは、撃ち出した弾丸を回転させ、ジャイロ効果で弾道を安定させるようにする――いわゆる、ライフリングのアイディアだ。本当にアイディアだけ出して簡単な理論説明をしたら、アイフェルがそれを「理解した」と言ってそこから発展させていってしまったのだが。
まあともあれ、それをアイフェルに頼んで首都にあるという火縄銃士組合に持ち込んで、試してみるようにと掛け合ったのである。
それがかれこれ、三ヶ月ほど前のことになる。
思えば懸念はいくつもあった。
まずライフリングは弾丸の直径、長さ、比重と、銃弾が銃身から飛び出した瞬間の速度を用いてライフリングの適切な『ねじれ』を求めるのだが、数学音痴なオレはその公式を暗記していなかったこと。
二つ目は、鍛冶組合のアイフェルからの手紙をきちんと読んでくれるかどうか、そして手紙の内容をきちんと実践してくれるかどうか、と、考えれば考えるだけ出てくる。
そしてなんと、火縄銃士組合は新型発火機構――ホイールロック式まで作ってみたそうなのだ。
アイディアはオレとはいえ、図面を書き上げて詳細を詰めてくれたのはアイフェルなので、これは素直に嬉しい。
ホイールロック式は、一言で説明すればライターの発火機構とかわらない。
火縄銃が火縄によって火薬に火を点火する形式なのに対して、バネなどを使って鋼輪を回転させ、ハンマーと呼ばれる部位に装着された火打石と擦り付けることで火花を出し、その火花で火薬を点火するものだ。
これだけ複雑そうな段階があるにも関わらず、銃弾が銃身から吐き出されるまでのタイムラグは三分の一秒ほどだ。
火縄銃士組合は王都の夜警も担当しているというので、火が消える心配のある火種から火打石とホイールに変更されたことは大きい。火縄は暗闇では赤くぼうっと光るし、火のついた縄であることにかわりはないので匂いも煙もたつ。発砲時の衝撃で、火縄が外れる事だってある。
手紙に書いてあるとおり、構造が複雑で部品が壊れ易いのが欠点ではあるものの、そこは織り込み済みだ。もともとホイールロック式はそういうものなのだ。
「特許は取ってあるから勝手に王都の組合が乱造することはない。あの構造の一品をきっちり作るのはドワーフでもめんどくさ……難しいから、心配することもない」
「今めんどくさいって言いかけてませんでしたかね……。まあなんにせよ、良い便りだな」
「親方をさしおいてずうずうしい。けど、コウを通じて私にもお金が入るから許す。あと言ったと思うけど、火打石はベルツァールではドワーフのほぼ専売だから、このハンマーってところの先端に装着するのは、黄鉄鉱が主体になる。黄鉄鉱でも隣の国のヴァーバリアからの品のが安いくらい」
「そっちのが安くすむからしかたないっすね。よっし、ごちそうさま」
「ん。しばらくしたら首都から試作品が届くだろうから、楽しみにしてるといい」
「うっす!」
無表情で粥をぱくぱくするアイフェルにサムズアップし、オレはアニソンの鼻歌を歌いながら食器を洗う。
なんにせよ、オレの異世界生活はマイペースではあるけれども、着実に進んでいるのだ。
○教育
おそらくなにをするにも必要になる。
最低限の教育、というのは義務教育でみんな文字が読めるのが当たり前で算数もできる、という意味なのだが、教育が義務になる前は文字が読めて算数ができるだけで仕事にありつけることもあった。
たとえば、この世界では文字の読み書きができない冒険者の依頼報告書を代筆する業務が盛んである。
半ば冒険者ギルドによって公式化されているため戸口は狭いが、代筆業というのは他にもある。
手紙を代筆するとか、役場に届け出る書類を代筆するとか、自伝の代筆をするとかである。
また署名代わりの蝋印を作成する際には、文字が読める代筆業者を立会人とすることも多い。
算数も例外ではなく、在庫管理や整理、帳簿の記載や整理といった管理業務に役に立つ。