第11話「ドワーフ・イン・ワンダーランド?」
それで、このタウリカというか、この世界についてだが。
はっきりといって、日本的なファンタジー世界がそのままあると思えばいいと思う。
細部はかなり違う。というよりも、細部が異常に細かい面があるし、伝承や民話といった類のものはヨーロッパテイストだからかなり語弊がある言い方とは思うが、それが一番分かり易い表現だろう。
一般的に言われている中世くらいの年代背景で、異種族と人族、そして蛮族と言われているモンスターたちがいる。
教会は死にたてほやほやの死体を奇跡によって蘇生する商売もやってるし、ビキニアーマーつけてる褐色ばいんばいんの美人なお姉さん見たことあるし、郊外で遊んでたらオレンジ色のぷるぷるしたスライムっぽいなにかと出合って、お互い目を逸らしたら襲われると思ったのか、小一時間ほど睨めっこしたこともある。
ただ、国家や組織という単位に関しては、ファンタジー世界のそれと比べたら現実寄りで、細々としていて、いろいろ複雑そうだというのは少し調べてみて分かった。
とはいえ、軍オタとしては軍隊についての方が気になったから、ちょっとルールーとかアイフェルとか、あとは元傭兵だったとかいう冒険者にその点に関して聞いてみたりもした。いくら人と喋ることが苦手でも、自分の興味の矛先に関する情報を得るためならば、なんとかなるものだ。
それらから情報を統合すると、どうもやっぱり、この世界の軍隊はほとんどが常備軍ではないらしい。
常備軍というのは、字面のとおり常に備えている軍隊のことだ。
軍隊なんだから当たり前だと思うかもしれないが、常備軍は常に備えている為に軍人を"確保し続ける"必要がある。
それら軍人を賄うためには金がいる。
オレのいた世界でそれは大抵「税金」という仕組みで解決されていた。
のだが、逆を言えばこの「税金」が確立される前はそうではなかった。
各地の諸侯、つまり偉くて土地を持ってて金もある貴族が各自騎士と領民を抱えている。
その国の王がお願いして各地の諸侯とそれにくっついてる騎士と領民を集めて、戦争のために軍を作る。
そして兵が足りなかったりした時は、傭兵を雇うのだ。
難しい話でもない。
ようするに「戦争に備えて常に準備をする」のが常備軍。
それ以前の古い軍ってのは「戦争が始まるんでお願いします集まってください」って形式なのだ。
兵隊ってのは育成するのにも金と時間がかかるから、金と時間のある貴族、そしてそのお抱えの騎士くらいしかまともな戦闘訓練を受けてなかったって事情もある。
で、その古い軍が完全に廃れるのは意外と遅く、これには食料事情の改善で人口が増加し、一騎当千よりも、とにかく数がものを言う銃火器の時代へ入り、訓練をちらっと受けた人でもそこそこ戦えるようになる土壌ができてからの話になる。
―――まあ、それ以前にも先駆者ってのはいるんだが、全体的に移行したのは割と遅いって話だ。
そんな魔法と剣のファンタジーな世界に転がり込んでしまったオレだったが、まあ言ったとおり、なんかチートな能力とか道具とかエクスカリバー、バルムンク、デュランダルなどを持たされたわけでもない。不思議空間で神様に出会ったりだとか、そういうこともなく、ここで一般的なドワーフとして今日も生きている。
わりと平和でわりと物騒で、とくになんてこともない新鮮な日常。
そんな日常をのんびりと、仕事に追われながらも満喫して、早々と二ヶ月。
目下、オレこと、ドワーフのコウは見習い蹄鉄屋として働いている。