第112話「休戦のために」
《三叉路の戦い》がもたらした結果は、ベルツァール王国とリンド連合との間で無視できないものとなった。
リンド連合第四軍はこの戦いにおいて戦死・戦傷をあわせて総勢三〇〇〇もの兵を失い、数少ない砲兵などは火薬の誘爆で戦闘力を喪失していた。
さらには虎の子のシモン・バドニー将軍の騎兵も数の不利を承知で勇戦したために、その三分の一を失うという大損害を覆っている。
加えて、例年よりも遥かに早い冬の気配があった。
両軍が一時休戦し死体の回収などを行い、それが完了するまで三日がかかったが、三日のうちに気温はますます下がり上がる兆しはない。
リンド連合第四軍としては、これ以上の戦いで損失を増やし冬に入るよりも、ここで交渉の席につくのを得策とする他なかったのである。
一方、ベルツァール王国もまた少なくない痛手を負っていた。
銃剣による白兵戦を経験した火縄銃士組合の一〇〇〇名はもっとも損害が著しく、続けて戦えるのは半数に満たないほどである。
北部騎兵もまた七騎を喪失し、南部騎兵もバドニー将軍の騎兵隊により古参の一三騎を失ってしまったのだ。
以外にももっとも損失が少なかったのは、大軍を受け止めた騎士修道会が中心の護国連隊だった。
彼らは少しばかりの休息と睡眠を取ると教会の前で祈りを捧げ、その足で戦場跡に向かって死体の回収と並行して、死者への祈りを捧げるほどである。
いったいあの体力はどこから出てくるのかと、へとへとになってほぼ寝たきりになっている髭なしドワーフのコウなどは苦笑いするしかなかったという。
疲労というならば、南部諸侯の兵はとくに疲労が重かった。
戦いではもっとも損耗から遠ざかっていたとはいえ、戦列の崩壊の際には追撃戦で猛威を振るい、リー・バートンなどは剛腕の名を轟かせた。
他の南部諸侯たちもそれぞれが勇名を馳せ、緒戦の復讐と報復を成し遂げたのだ。
「さすがに、もう南部の兵は限界だ」
目元に隈をぶら下げながら言ったのは、マッカネル・トリトラン伯爵だった。
南部諸侯の兵は武具の補給や食料があっても、すでに三週間近くも前線に立っていた疲労は肉体的にも精神的にも限界だった。
実際、兵だけではなく、諸侯の中で最年長となったマクドニル子爵などは戦いの後に過労で気絶して今も寝たきりになっている。
唯一、南部諸侯の中で連戦ができるのはカリム城伯のみで、彼にしても戦力比的に戦闘は不可能だと断言している。
ヴァーバリア公国のユーダル独立砲兵連隊は残りの火薬量が乏しく、火縄銃士組合の分を使っても軽い砲戦を一度したらそれで終わりだ。
つまり、両軍とも二度目の戦いには耐えられない状況だったのである。
互いの軍がそのことを知るのは、しばし後のことになる。
今はともかくとして、両軍の司令官は交渉の席につくことに合意し、その日程が組まれることになった。
そうしてベルツァール王国とリンド連合の交渉においては、マルマラ帝国の全権委任大使が同席することとなったのだった。
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