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第105話「一杯の葡萄酒のために」

 

 ベルツァール王国軍の布陣は髭なしドワーフであるオレ、コウの立案によるものだった。

 右翼はトリーツ帯剣騎士団とその長ジークムント・フォン・カタリアを中心とした精鋭の護国連隊。

 トリーツ帯剣騎士団とバンフレート騎士修道会の連合に、北部貴族のモルドレッド・ボランの兵が加わり二七〇〇。


 左翼はパーラット・トリトラン伯爵率いる南部連合連隊で、右翼に比べて人数が多いためわずかに延翼している。

 カリム城伯の兵とマクドニル子爵とバートン男爵らが指揮下にあり、総計で四九五〇となっている。

 右翼と左翼の結び目である中央には、ローザリンデ・ユンガー率いる砲兵連隊が二重の砲兵陣地を築いていた。 


 予備戦力として右翼後方にパラディン伯ロンスン・ヴォーン率いる北部歩兵一〇〇〇が。

 そして砲兵陣地後方に戦略予備としてオレ、髭なしドワーフのコウが率いるパイク兵一〇〇〇と火縄銃士組合兵一〇〇〇の計二〇〇〇が控えている。

 数的に見れば左翼に比重を置いた配置のようにも見えるが、装備と練度は右翼が上であり、中央には大火力の砲兵連隊を据えている。


 さらにはこれとは別に、スクルジオが率いるサシュコー騎兵連隊が九五〇いる。

 緒戦において偵察という重要な役目を果たした騎兵連隊は敵の本隊が三叉路に入ってくると、損耗を控えるために一端後方に下がっている。

 総兵数一万二二〇〇名のうち、騎兵九五〇を除いた一万一二五〇名が戦列を敷き、そのうちの八二五〇名が最前にある。


 八二五〇名のうち砲兵連隊は六〇〇名であるため、実質的な最前線の兵数は七六五〇名である。

 ただでさえ数的不利がある中で、全軍をもって迎撃しないということには批判の声も多かったなと、オレはぐぅっと背伸びをしながら大きく息を吐く。

 パキポキと体のあちこちが軋んだりして傷むが、これはまあ死の淵から呼び戻された弊害というやつで、所謂〝死ななきゃ安い〟もんだと諦める。



「さあってと……準備はたっぷりしたし、思案もたっぷりとやった。あとは実践だな」



 よっこらせっと、天蓋なしの馬車から降りて、オレは腰に吊るした剣の柄を撫でる。

 南部の盾持ちからベルツァール・ロングライフルを受け取り、己の指揮する連隊の下へとオレは歩く。

 直接の指揮下にあるのは柄を切り詰めたパイク兵が一〇〇〇名と、火縄銃士組合の一〇〇〇名。


 あわせて二〇〇〇名の戦略予備がオレの手元にある。

 誰だかが〝兵力の逐次投入は愚策〟と言っていたが、しかし著名な将軍や研究家たちは同時に〝予備戦力の重要性〟をしきりに説いている。

 一見、矛盾しているように思えるこの二つの概念だが、どちらも間違ったことは言っていないとオレは思っている。


 昔、中古で買ったクラウゼヴィッツの《戦争論》(上・中・下 三巻構成)と、ジョミニの《戦争概論》を読んだ時、オレはそのことに気づけた。

 たしかに兵力を千切っては投げ千切っては投げと逐次投入してしまうのはよくないことだが、だからといって予備戦力を無くして全力でぶつかることが正しいことではない。

 チビで近眼眼鏡でハゲの常勝無敗のフランス元帥、ルイ=ニコラ・ダヴーがやったように、適切な戦線維持と戦力重心の見極めが重要なのだ。


 ロングライフルを肩に掛け、杖をつきながらオレは連隊の前へと歩み出る。

 総勢二〇〇〇名というだけあって、それを前から見たときの威容は思わず足が震えそうになるほどだった。

 こちらを値踏みするような視線を一身に受けつつも、オレは咳払いをしながら声を上げる。



「……火縄銃士組合の諸君! 剣は持ったか!? 銃は持ったか!?」



 もちろんだ、当たり前だ、と一〇〇〇名の火縄銃士たちが声を上げる。



「よろしい! ……パイク兵の諸君! 穂先は研いだか!? 足腰に不調はないか!?」

 

 

 応、応、応、と一〇〇〇名のパイク兵たちが声を上げる。

 ギルドである火縄銃士組合の集まりと、徴集され訓練を受けたパイク兵の答えが微妙に違うことすら、今のオレは面白いと感じられた。

 弾込めをしている砲兵連隊を背中に、オレは剣を抜いて声を張り上げる。



「明日に飲む一杯の葡萄酒のために、多くが今日を生き延びて酒場の明かりを拝むために、今日この場において死ぬ覚悟を示せ!!」



 応! と槍の穂先が、火縄銃の筒先が天に向かって突き上げられる。

 そのタイミングを狙ったかのように、オレの背後で砲兵連隊の一斉射の砲音が轟いた。

読者の応援が作者にとって最上の栄養剤になります。


感想、ツッコミ、キャラクター推しの報告、このキャラの描写を増やしてほしい増やせこの野郎などの声、心よりお待ちしております。


感想が増えても返信いたしますので、よろしくお願いいたします。

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