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第8話「《贈り物》は《無》でした」

『………強く生きるんだ、髭のないドワーフのコウよ』


「だからなんでそうやってオレを出荷前の豚を見るような目で見るの!?」


『私はエルフに転生したため、それ自体が《贈り物(ギフト)》だと割り切ることも出来たが……お前が転生したのはよりにもよってドワーフだ。人間よりも多少頑丈で寿命も長いが、しかしそれでも《贈り物(ギフト)》ないというのは辛いだろう』


「お前は話にならねえから黙ってろ。ルールー、《贈り物(ギフト)》ってなに?」


「えっ、ぁ、わ、私が説明しないと、駄目、なんですか……?」



 あたふたと慌て、ニルベーヌを見るルールーだったが、官僚エルフは目を逸らした。



「あぅぅ……え、えーと、《贈り物(ギフト)》というのは分かり易く言えば、一種の才能なんです。神聖十字教会などは、転生者が持ってして与えられし、神の贈り物、と呼んでいます。たとえば強大な魔力の持ち主であったり、ある属性に対する耐性であったり、中には魔剣や聖剣との繋がりを持っている方もいるそうです。なぜそうなるのかについては、私たち魔法使いにもよく分からないのですが……、神聖十字教会は前世の行いが良かったからだろうとか、そんなことを言ってまして……、ですから、その………」



 お前、いったい前世でなにしてきたの? という振りなんだろうか、これは。



「それがないってことは人生イージーモードができないって、そういうこと?」


『残念ながら、そういうことらしい』


「ちなみにニルベーヌ、お前どういう《贈り物(ギフト)》もらったんだ?」


『……エルフに生まれたこと事態が《贈り物(ギフト)》のようなものでな。だからまあ………ともかく、強く生きるんだ、髭のないドワーフのコウよ。大丈夫だ、私は多忙な身のためなにもしてやれないが、そこのルールーならば非力なれどもなんとかしてくれるだろう』


「え、私ですか……?」



 いきなり責任を放り投げられたルールーが困惑するが、官僚エルフはそれさえも無視する。



『そこのルールーが分からないだけで、なにかしらの《贈り物(ギフト)》を持っているという可能性もないわけではない。気を落とすな……というのも、無理な話かもしれないが、自暴自棄にはならないでほしい。前述したが、この国は不安定な状態にある。無意味な騒乱の種や暴徒が増えるのだけは本気で勘弁して欲しい』



 官僚エルフがなんか言ってるのをジト目でにらみつけ、オレは溜息を吐く。

 他の転生者がやるような人生イージーモードができないと告げられ、怒ればいいやら絶望すればいいやら。

 なにがなにやら分からずに混乱しきっていたが、最終的にオレはいつもそうするように、この事柄に対するリアクションを考えることを止めた。

 とりあえずはハードモードで始まった人生が、できるだけイージーになるように対処しようと決意する。

 いくら考えたところで答えが出ないものを探求しても、しかたがない。オレはその道の専門家ではないのだし。

 


「分かったよ。そっちの迷惑になることはしないようにする。ルールーも良い人っぽいしな」


『ルールーは魔法使いにしてはまだマシだ。こんなんでも公務員扱いだから金も持ってる。お前が非人格者の社会不適合者でなければ、援助はしてくれるだろう。逆にお前が人格者でそこそこ社会に適合できるなら、それなりに苦労はするだろうが、馴染めるはずだ』



 金があるはずなのになんでルールーは餓死しかけてたんだろうかと謎が浮かぶ。

 が、オレはあえて尋ねずに営業スマイルを作った。



「おっけい。分かった。なんかあったらこっちからテルするぜ」


『電話するみたいに気軽に言うな。たしかに非電化世界で現状最速の通信手段で便利なのは認めるが……、ともかく、転生おめでとう。これからは倫理と道徳に従ってその知性を発揮してくれ。《贈り物(ギフト)》がない以上、一騎当千夢物語などくれぐれも見ないように』


「おけおけ」


『うむ。では幸運を祈る。ルールー、よくしてやってくれ。私は仕事に戻る』


「あ、はい。それでは、これ、閉じますね」



 官僚エルフが鏡面から消え、鏡の破片が再び結合し一枚の鏡となる。

 こうして手鏡は手鏡に戻り、中に吸収された小鳥と宝石は二度とその姿をあらわすことはなかったのであった。

 あれは捧げものみたいなものだから、戻ってこないのは当たり前なのかもしれないが。


 元に戻った手鏡を元あった場所――ではなく、適当にそこら辺に置いて、ルールーは言った。



「《贈り物(ギフト)》がなくっても人生なんとかなりますよ、たぶん」


「たぶんって付けるのは逆効果なのでないほうがよかったっすね」


「あ、すいません……。えっと、それじゃあ、あらためて、よろしくお願いしますね、コウ」



 優しく微笑みながら、細い手をこちらに差し出してくるルールー。

 オレはちょっと悩みながらも、小鳥を躊躇いなく〆たその手を握る。

 やっぱりひんやりと冷たくて気持ち良い。



「んじゃ、こちらこそよろしく」



 始まったばかりだが、前途多難なことが予想される異世界転生生活物語。

 できたらもっと楽な異世界転生が良かったなぁ、と思いながらも、とりあえずオレはこの汚部屋をクリーンにするためにルールーに掃除用具の有無を確認し、雑巾に使えそうなボロ布を探すことにした。

 古本が住む住居環境は、決して正常な人間が住める場所ではないということを、オレは身をもって知っているのだから。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 「じゃ、そういうワケで私はこのへんで」と見捨てたり放り出したりしないだけ、ルールー様はコウ君にとって女神そのものであった。 [一言] ヒモ生活開始か(小声)
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