むかしむかしのおはなし
その世界には外なる世界からやって来た、なんにもできない王さまがいました。
王さまは国も持っていませんでしたし、臣下もいません。
見かねた緑の翼竜が手助けをしても、すぐにぐずってしまってにっちもさっちもいきませんでした。
けれども王さまは、他人の不幸を自分のことのように感じられる人でした。
悪い魔法使いたちが人々にする仕打ちを見て、王さまは涙を拭って立ち上がりました。
なんにもできない王さまは、自分の心臓と緑の翼竜の心臓を半分ずつ交換して、誓いを結びました。
緑の翼竜のおかげで強くなった王さまは、旅の先々で人を助けて悪い魔法使いを倒そうと言いました。
いろんな種族のみんなが集まって、王さまは仲間と一緒に、長い旅路の果てに悪い魔法使いを討ち、国に平和をもたらしました。
そして王さまはもっと北に悪い魔王がいると聞き、みんなを説得して悪い魔王を倒しにいきました。
いっぱい、いっぱい、いっぱい、みんなも疲れて倒れていったけれども、ついに王さまは悪い魔王を討ち滅ぼしました。
その魔王には黒幕がいました。
黒幕の張る結界の前に、常世のものであるみんなはついていけませんでした。
そして黒幕についに辿り着いた王さまは、絶望してしまいました。
黒いヴェールを被る彼女に王さまは泣き叫びました。
「救うために戦ってきたのです。切り捨てるためでも、滅ぼすためでも、見捨てるためでもないのです」
「なのに、なのにどうして、どうしてこんな」
「こんな哀しみが私の前に立ちふさがるのですか?」
かくして、世界は魔王のいない平和な時代を迎えました。
王さまは聖なる王さまとして、黒い影を引き吊りながらもみんなのために国を治めました。
すっかり変わってしまった聖なる王さまを見て、旅の仲間の異端の女魔法使いと盾の男は去っていきました。
聖なる王さまのそばには、癒しの力も使い切ってしまった最愛の妃さまだけが残りました。
けれども、時が経って最愛の妃さまが亡くなってしまうと、悲嘆にくれた聖なる王さまは、どこかへと去ってしまいました。
それが今から、二〇〇年も前のお話なのです。