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長い長い道が続いていた。あいつ以外に誰かいるかもしれないから、私は足音を立てずに一歩一歩慎重に進んでいった。
久しぶりにこんなに歩くかもしれない。
(あ、またドアがある…)
今度こそ開かないかもしれない…と思ったが、ドアノブに手をかけた。
──開いた!
音を立てずに慎重に慎重に。
どうやらここは物置のようだ。ガラクタがたくさんというほどでもないが、チラホラ見かける。
そのガラクタは美術館に飾ってありそうな絵だったり、高そうな壺だったり、一般の家にあるような物ではなかった。
なんでこんなのあるんだろうと思っていると、ぬいぐるみを見つけた。
色褪せてしまっているが、ピンクのうさぎのぬいぐるみであった。
(このぬいぐるみ…。どこかで見たことある?)
うさぎのぬいぐるみを手に取って見てみた。どこかで見た事あるような、ぬいぐるみだったが思い出せない。とりあえず、うさぎのぬいぐるみを置いといて進むことにした。
物置から出たら階段があった。
(この階段を上れば出れるのかな?)
一段一段慎重に上がっていく。何回か躓きそうになったがなんとか登りきった。
どんどん明るくなってくる。
そして階段を登りきったら、広い部屋に繋がっていた。部屋というよりホールみたいな場所だった。
電気はついてないが、大きな窓から映し出されてる満月が光の役目を果たしていた。
「綺麗…」
久しぶりに自分の感情を声に出した。
そして何年ぶりに見る満月だろう。
それにしても、ここはお屋敷であることに驚いた。
だから、美術館に飾ってありそうな絵だったり、高そうな壺が物置にあったのかと自己解決した。
ホールでしばらく満月を眺めていた。
ここからそのまま外に出ようかと思ったが外に出られる気がしなかった。
いや、何故か出れなかったのだ。
1つ引っかかることがあったからだ。
(私、このお屋敷の中見たことある。)
そう考えると、いても経ってもいれなかった。
そのまま歩み始めた。
(確か、このまま真っ直ぐ行ったら、調理室があるはず)
真っ直ぐ歩いて行った。調理室があった。
(なんでわかるんだろ?確か2階の奥に書斎があるはず。)
調理室から一番近い階段から2階に行き、一番奥の部屋を見てみた。書斎室があった。
(やっぱり…私、前にここに住んでいた?)
だから、うさぎのぬいぐるみ見て懐かしいって思ったし、場所もわかるのかと思ったが
──じゃあ、なんで私あんな所にいるんだろう?
疑問が生まれた。
(物置に行ったら、なにかわかるかな…?)
私は来た道を引き返した。
ここから出るより、なんでお屋敷の中を見たことあるのだろうか?前ここに住んでいたことがあったのか?と気になって仕方なかった。
階段を降り、物置のドアを開いた。
うさぎのぬいぐるみをまた手にとってみた。
(なにか手がかりないかな……)
うさぎのぬいぐるみを前から横からと見てみる。
(あれ、右脇に縫い目がある。)
うさぎの右腕を上げると縫い目があった。綺麗な縫い目である。
破けて縫ったのかなと考えていると目の前に一本の糸がツーっと出てきた。
「うわっ!」
目の前に蜘蛛が出てきて、びっくりして、うさぎのぬいぐるみを落としてしまった。
うさぎのぬいぐるみを取りにいこうとしたら、アルバムを見つけた。
ホコリがかぶっていたが中は大丈夫そうなので、アルバムを見るため、アルバムを開いた。
「!?」
1ページ目に私の両親が写っていた。そして何人かの執事服やメイド服を着ている人。そして小さな赤ちゃんが私のお母さんに抱かれていた。
(この赤ちゃん、私?それにしてもこの写真の場所)
──さっきのホールだ。
つまり私は昔、本当にここに住んでいた?
もう1ページめくると少し大きくなった私の写真があった。
(3歳くらいのかな…)
私と執事服を着た男の人と写真があった。私の手にはうさぎのぬいぐるみを持っていた。
(思い出した、5歳の時にぬいぐるみの右腕が破れて、大泣きしたんだ…。それでこの人に直してもらったんだっけ…名前なんだっけ?)
小さい時だったから、思い出せそうにも思い出さない。
ズキズキと頭が痛む。思い出せ、思い出したくない。思い出せ、思い出したくない。思い出せ、思い出したくない。思い出せ、思い出したくない。思い出せ、思い出したくない。思い出せ、思い出したくない。思い出せ、思い出したくない。思い出せ、思い出したくない。思い出せ!思い出したくない!思い出せ!!思い出したくない!!思い出せ!!!思い出したくない!!!思い出せ!!!!思い出したくない!!!!思い出せ!!!!!!!!!!思い出したくない!!!!!!!!!!
二人の私が争っている。私は思い出したいのに、もう一人の私が思い出すなと言っている。
(……!)
──足音が聞こえてきた。
見つかったら、何をされるかわからない。
(戻らなきゃ、部屋に戻らなきゃ!)
今すぐ部屋に戻ろうとした、けど体が動かなかった。普段ずっとあんな場所にいて、こんな歩き回ったのは何年ぶりかわからないくらいだった。そのために私の足は悲鳴をあげていた。
(どうすれば……!)
隠れるような場所もない、足も動かない。
どんどん足音が大きくなってくる。
その度に私の心臓も早くなる。
(あっちに行って!!)
その願いも叶わず、物置のドアが開いた──。