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004

 だとすれば、俺はもう何も怖くない。


「つまり、斯く斯く云々以下省略により逢坂、お前は立派なイジメの被害者だ」


 言ってやった、言ってやったぞ。

 俺は今というこの瞬間だけならば、世界中の誰よりも格好良いのではないだろうか。そんな余韻に浸りながら、人差し指をビシッと逢坂の額に決め、ニヤリと不敵な笑みを溢した。


 一応、再確認の為に言っておく。

 逢坂と出会ったのは、今日が初めてである。


「そう。私は虐められているのね……」


 こちらに、噛みつき掛かって来ると思われた逢坂であったが、反撃に身構えていた俺の気持ちとは裏腹に、意外にも俯き、泣き出すという予想外の行動を取った。その予想外の行動のおかげで、むしろこちらの方が追いつめられる状況に陥ってしまった。


 逢坂もやはり女の子なのだな、そう思わざるを得ないような一面を見せられた俺は、お手上げ状態となってしまった。


「あの、えっと……」


 何か慰めの言葉を掛けなければならないことぐらいは分かる。俺だって男なのだ。しかし、これまでの人生で女性経験皆無の俺が、こんな時に掛けられる言葉なんて持ち合わせているわけもなく、ただただその場であたふたすること以外に何も出来なかった。


 自分自身が、予想以上に惨めであることを、数分前に人差し指をビシッと決めていた俺には、知る由もないことだろう。さっきまであんなに格好良く映っていたはずなのに。


「っぷ。ぷぷぷぷ」


 本気で心配をする俺を他所に、逢坂の口から堪え笑いが零れ落ちる。


「あーっははははははッ」


 そして、堪えていた笑いを全て吐き出すように、腹を抱えて笑い出した。この様子から察するに、俺は嘘泣きをしていた逢坂に、まんまと引っ掛けられた上に、馬鹿にされているらしい。


「あんたは、泣いてる女の子に慰めの言葉の一つも掛けられないわけ?」


 ごもっともだ。正論過ぎて、何も言い返せない。ぐうの音も出ないとは、きっとこういうことを言うんだろうな。身を持って勉強させられることになるとは。


 だが、泣いている逢坂の背中越しに優しい台詞で慰めをして笑われた時の方が、もっと心に深い傷を負った可能性を考慮すれば、まだ軽傷であったと思い込むことにしよう。


「それに、自分が何言ってるのか分かってる? 初対面の相手に対して、お前は虐められているなんて言うのよ。こんな馬鹿な話ある? いいえ、間違いなく絶対に今後数百年は無いと言い切れるわ。この惑星ほしにも、まだこんな変な奴がいたのね」

「なんだよ、この惑星にって。お前は、ち――」

「ち?」


 お前は、地球外生命体かとツッコミを入れてやろうかと思ったが、なんとなく面倒臭い方向に話が進みそうな気がしたので、この思いをグッと胸の内側に押さえ付けておいた。


「いや、なんでもない」

「まあ、いいわ。そんなあんたに、私から一つ問題を出すわ。心して掛かりなさい。私が、誰かに虐められているかもしれないという可能性を認知した今、私がするべき行動とは、一体何でしょう?」


 満面の笑みの逢坂を見て、こいつの考えそうなことなどたった一つしかない。


「どうせ、仕返しだろ」

「惜しい。まあ、あんたの微生物程度の脳味噌にしては悪くない線よ」


 微生物って、おい。


「じゃあ、答えはなんなんだ?」

「答えは、超報復行為よ」


 なんだよ、超報復行為って。


「そこで、何をすべきかあんたも考えるのよ」


 これから、考えるのかよ。


「まあ、微生物並みの脳味噌なんて、何の役にも立たないのは目に見えているけど。まあ、あれよ。馬鹿の手も借りたいってやつね。あれ、屑だったかしら。まあ、どっちでもいいわ。あんたも考えなさい」


 彼女から発せられたその言葉が、俺の耳を通じ脳味噌まで届いた瞬間、神経が咄嗟に反射したのか、俺の背筋に何か嫌な寒気が走ったのを俺は決して逃しはしない。


 人間と言うのは、地球が発する電磁気を感知する第六感と言うものを、先天的に備えているらしい。地震や異常気象の前兆として動物が騒ぎ出すのも、この第六感が異常な電磁気を感知しているからだ、という説を聞いたことがある。


 と、するとだ。


 この嫌な寒気の正体は、俺の中に眠っているだろう第六感が、逢坂から発せられているであろう、余りにも異常過ぎる電磁気をビンビンと感知しているからではなかろうか。


 そして、危険を察知している俺の第六感を信じるのならば、俺が考えるべきことは、逢坂の仕様もない超報復行為を共に考えることではなく、如何にしてこの場を早急に逃げ出すかを考えることである。


 重要なのは、あくまで冷静を装うことだ。

 今一度、深呼吸をし、逃げ出す体制を整える。


「手を借りるなら猫にしておけ。馬鹿も屑も敵にしたら面倒だが、味方に付けたって何の役にも立たんからな。微生物程度の脳味噌しか持たない馬鹿で屑な俺は、これから楽しい楽しい授業に参加しなければならない。そう言う訳だ、じゃあな」


 よし、良い。かなり、上出来だ。授業と言う単語を使う事によって、本当は一緒に考えてやりたいんだが、どうしても授業があるから出来ない。授業さえなければな、と言う感じが伝わったに違いない。


 今のうちに、その流れのままに、逢坂の前を通り過ぎようとした瞬間、襟元を思い切り引っ張られた俺は、喉に思い切り食い込み、その場で激しく咳き込むこととなった。


「何しやがる」

「思い付いたわ……これ以上にないくらい、とっておきの圧倒的名案が」


 先程の寒気が最高潮に達しているのを、第六感を持たずとも逢坂のキラキラと輝くこの曇りなき瞳を見れば理解出来る程になってしまった俺は、もう逃げられないことを悟った。


「作戦を説明するわ」

「ちょっと待て。俺には、授業がだな……」

「まず、あんたは――」


 案の定、人の話を一切聞く気もなく、逃げることの出来なくなった俺は、仕方なく逢坂の立てた作戦に耳を傾けた。作戦の説明をする逢坂は、余りにも活き活きしていて、噂で聞いていた人物とはどことなく違うのではないかと錯覚させられた。


 そう、あくまで錯覚なのである。

 この後俺は、全校生徒、全教師、及び周辺地域を震撼させる――これは少し言い過ぎたかもしれないが、ある騒動の片棒を担がされることになるなんて、この時の俺は微塵も考えていなかった。


 もしも、未来の俺から今の俺へ一言だけ伝えられるのなら、こう伝えるだろう。

 残念だったな――と。



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