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032


 行く宛ても心当たりも何一つとしてないのだが、少なくとも学校にいるよりは見つけられる可能性が上がるはずという理由もあったが、それよりも今はこの誰もいない不気味な校庭から早く抜け出したかった。


 我武者羅にただ前へ前へと走って行くと、意外にもあっさりと見つかった。俺の根拠の無い勘が逢坂はいるとは言ってはいたが、それは自分を信じさせるための思い込みだったのではないかと疑ったが、内心目の前に逢坂が居てくれたことに安堵していた。


 逢坂は、川の手すりの上を平均台を渡る様に手を広げ、バランスを取りながらよろよろと歩いていた。見ようによっては、翼を広げ、空へ羽ばたこうとしているようにも見えなくはないが、そんなんじゃないのだろうけど。


「あんた、何しに来たの?」

「俺とデートでもどうだ」


 いきなりデートに誘われるだなんて、予想だにしなかったであろう逢坂は、体勢を崩し、手すりから足を滑らせた。なんとか俺は、逢坂の腕を掴み、川への転落という最悪の事態は免れことが出来た。


「い、いきなりなに言ってんのよ。馬鹿じゃないの」

「いいや、俺は正真正銘、至って普通で真面目にこんな馬鹿な事を言っている」

「なんで、私をデートに誘うことが馬鹿な事なのよ」


 ん? 俺、何か間違えたか。


「そもそも、なんであんたなんかとデートなんてしなきゃなんないのよ」


 まあ、簡単にホイホイ来るとは思っていなかった。それなら、こっちにだって逢坂を動かせるだけの巧妙な作戦がある。


「なんだ、まさかデートするのが怖いのか」

「はあ? なんで、私がデートなんかを怖がらなきゃなんないわけ。なら、行ってやろうじゃないの。遊園地でも、水族館でも、映画館でもどこへでも行ってやるわよ。その代り、全部あんたの驕りね」

「なら、今から付き合って欲しい場所があるんだ」


 言葉巧みに逢坂を誘導し、なんとか連れ出すことに成功した。もう、残された時間はそう長くは無いので、早速目的地へと移動を開始する。


「どこまで行くのよ」


 まだ十分も歩いていないだろうに、後ろで逢坂が吠えている。


「まあ、待て。もう少しだ」


 こいつには、忍耐と言うモノは無いのか。

 逢坂が吠えてから暫く歩くと、目的地に着いた。


「着いたぞ」

「ここは……星降りの丘」

「ああ、そうだ。ちょっと、ここに寝そべって見ろよ」


 俺の言葉に逢坂は、芝生の上に寝そべる。


「うわあ……」


 それ以上に声にならない逢坂。連れて来た甲斐があったってもんだ。俺が逢坂に見せたかったのはこれだ。今日、七月七日の今日に見れるとニュース番組で言っていた流星群だ。


「あ、流れ星」


 普段学校で会う逢坂とは違い、流れ星を見つけてから願い事をする無邪気な逢坂もなんとなく新鮮に思えた。絶対に願い事を三回言う前に通り過ぎただろと思ったが、一応、逢坂に聞いてやる。


「流れ星に何を願ったんだ」

「そんなの決まってるじゃない。星の願いを――よ」


 今ので、俺は確信をした。あの一際異彩を放っていた短冊は、やっぱりお前の書いたモノだったのかと。まあ、あんな変わった短冊書くような奴は、俺の知り合いにはお前くらいなものだからな。


「星は、一体どんな願い事をするんだろうな」

「さあね。そんなの星にでもならない限り分からないわよ」


 そりゃそうだ。


「なら、逢坂はどういうつもりで書いたんだ。あの短冊」

「まさか、人の願い事を覗き込むような趣味があるんじゃないでしょうね」

「いや、覗かなくても分かる。お前のだけ、変わってたからな」

「変わってる? 私はただ、散々人の願いを叶えて来たんだから、たまにはその能力を自分の為に使っても良いんじゃないと思ってそう書いただけよ。あれ見て」


 逢坂の指を目で追いかける。


「あれが、アルタイルこと彦星よ。あれが、べガこと織姫。あれが、天の川に橋を架けるカササギことデネブ。そして、この三つの星を結んで描かれる、細長い大きな三角形をしたアステリズムを夏の大三角形と呼ぶのよ」


 逢坂が一つ一つ懇切丁寧に説明をしてくれる。ただそれを、ぼんやりと聞いているだけで良かった。その感じがなんとも心地良かったからだ。


「知ってる? 世界で初めてこの三つの星を結んで描かれるアステリズムを、夏の大三角形と最初に呼び出した人は分かっているに、日本で初めてこれを夏の大三角形と呼んだ人は、未だに明らかになっていないのよ。不思議よね。誰がこの国へ運んできたのかも分からない言葉を、私たちは夏が訪れる度に、それを口ぐちに空を見上げながら言うのよ」


 俺はうんともすんとも言わず、黙ったまま逢坂の話に耳を傾ける。


「でも、その人は自分が最初に呼び出したと名乗ることは無かった。どうしてだと思う?」

「そんなの、その人にでもならないと分からないだろ」

「そうね。多分、それが正解。その人は結果的に、意図したつもりなんて全くないのだろうけれど、間違いなく日本をちょっと動かしたと思うのよね」


 逢坂が何を言いたいのか話の先が見えてこない。


「この世界って良く分からないわよね。世界は、私の思っているより繊細に出来ているんじゃないかと感じる時もあるし、そうかと思えば逆に思っているよりも単純に出来ているんじゃないかと感じる時もある」


 これは確か、東雲が最後に俺に伝えてきたメッセージだ。

 ということは――。


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