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 七夕だからと言って、これといった変化があるわけでもなく、普段とも何ら変わらない朝がやって来た。それでも、俺にとっては何ら変わらぬ日であるとは言い難く、少なくともいつもとは少しばかり心境の違う朝を迎えることとなった。


 これといった良い案が見つかるわけでもなく、これといった良い解決策が見つかるわけでもなく、それでも取り敢えず学校へ行かなければという、半ば学生の義務とも言える勉学に励むために登校をする。


 何も考えていない時と同様に、何かを考えている時も、なんとなく意識しながら歩いている時の半分以下の力で歩ける上に、尚且つ夏の暑さにも気付かずに登校出来ることに気付いたのは、学校に着き、いつの間にか自分の席に着席していた時のことだった。


 だが、夏の暑さはしっかりと俺のシャツに汗と共に刻み込まれていた。どんなに暑さを誤魔化しても、結局暑いものは暑いようでだ。


 間もなくして、東雲が着席をする。

 チラリと後ろを見ると、どうやらいつもと様子が違うようだった。


 これが暑さの性ならば、別に気に留めたりもしないのだが、どうやらそういう感じではないようなのだ。どことなく夢見心地というか、心ここに在らずというか、上の空というか――兎に角いつもの逢坂とは様子が違うのだ。


 朝の日課となった軽い小話をするも、「へえ」や「ふーん」、「そう」といった具合で、まともな返事が何一つとして返って来やしないのだ。いつもなら、どんな些細な話でもある程度以上に食い付いてくれるのだが、今日はそんな素振りすら見られない。


 そして、いつものように騒ぎ立てながら、能然が俺の下へやって来てはどうでも良い話をし、その声の騒々しさに逢坂が吠え、能然が退散するというお決まりの流れまでもが、今日は見ることが無かった。


 普段、吠えられている能然ですら、


「今日の御陽どうかしたのか」


 と耳打ちで聞いて来る在り様だ。

 俺が知るか。

 むしろ、俺が聞きたいくらいだ。


 なんだかんだで、逢坂に吠えられることを能然も受け入れており、その上で心配までしているのである。いつもの調子で朝を迎えられなかった俺たちの方が、むしろ逢坂以上に調子崩れすることとなってしまった。


「おい、席に着け。この間の課題にしてた短冊を笹に付けろ」


 咆哮にも似た叫びで、生徒を押し付けるように一度着席させ、課題だった短冊を笹に付ける為に、再び生徒を立ち上げさせることに何の意味があるのかと疑問に思いながらも、笹に短冊を付けに行く。


 世界が平和でありますように――。

 今思えば、なんて面白味の無い願い事なんだろうな。

 お金持ちになれますように――。

 カッコ良くなれますように――。

 天才になれますように――。


 どれもこれも、逢坂が言うように、自分がその願いに近づけるように努力なんてすることなく、それを叶えて貰えるのならと自分の欲望を押し付けているのだろうな。


 まあ、俺のように本気で叶えてくれると思っていないから、こんな無理難題な願い事をしているのだろうけれど、それでも人間なんて醜くて、汚くて、卑怯で――まあ、そんなものなのだろう。


 しかし、これだけ数のある短冊の中で、一際異彩を放っている短冊が俺の目に飛び込んできた。


 星の願いを――。


 星に願いを――なら、なんとなく分かるような気がするのだが、星の願いを――と言うことは、星が願う星の願いを自分のために叶えなさいという願いなのだろうか。


 だが、一体誰がこんな短冊を――まあ、考える間でもないか。

 きっと、逢坂だろう。


 何を思ってこの短冊を書いたのかなんて、その意図は逢坂にでも聞かない限り分かりはしないのだが、わざわざそれを詮索するような無粋な真似をする気なんてさらさら無い。


 ただ、逢坂らしい――この一言に尽きる。


「今日の七夕祭は七時からだ。準備委員は、ちゃんと行けよ」


 そう言えば、七夕祭があることを忘れていた。

 七夕祭というのは、短冊を吊るした笹を夜の七時頃から燃やし、煙が空へ昇ることによって皆の願いを織姫と彦星に届け、願いを叶えて貰うというこの周辺地域の風習なのだそうだ。その後は、あまり遅くならない程度に友達と喋ったり、遊んだりとキャンプファイヤーの様な感じで、七夕祭を終えるというイベントだ。


 どうせ、逢坂のことだ。退屈そうにしているに違いない。

 そこで、何か行動を起こさなければ、チャンスはもう無いだろう。

 だが、何をすれば逢坂を満足させることが出来るのだろうか。


 そんな調子で、何も思いつかないまま放課後が訪れ、逢坂もそのまま何事も無く帰ってしまった。もしかしたら、久々に平和な日常というのを味わっているのかもしれないが、妙な物足りなさに返って気疲れしてしまう。


 俺の求めた日常のはずなのだが、どうもこれではなかったようだ。靴を屋上から投げ捨てたり、光の球で襲われたり、世界がゲームの世界になってて魔王と戦ったりと、思えば何一つ日常を味わった記憶はまるで無い。


 だけど、終わってみれば日常をのんびりと過ごした日々よりも、そうした非日常を過ごした日々の方が、より俺の中の日常というモノに近づいているようだ。


 もしも、「俺、屋上から靴投げたことあるんだよね」だとか、「俺、光の球で襲われた事あるんだよね」だとか、「俺、ゲームの世界で魔王と戦ったことがあるんだよね」なんて気軽に言う奴が居ようものなら、俺がこう言ってやる。

それって普通だろ――てな。


 いや、間違いなく普通ではないのだが。



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