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 そう言えば、何日か前に課題が提出されていたんだっけ。


 課題と言っても、授業の課題ではなく、七夕に付けるための短冊だ。それをなぜか、俺は能然に見せつけられているのである。因みにそこには、こう書かれている。『イケメンになれますように』ってな。


「お前がイケメンになったらもう別人だな。今までありがとう、能然。お前のことは忘れない、じゃあな」

「ふっふっふ。そう返されても良いように、こっちも用意してある」


 なんだと。能然の癖にそんな高等テクニックをどこで学んだんだ。


「頭が良くなりますように――だ」

「お前が頭良くなっても別人には変わりないだろ。今までありがとう、能然。じゃあな」

「待て待て。まだだ、最終兵器。お金持ちになれますように――はどうだ」

「じゃあな」


 一瞬、切り返しなんて高度なテクニックを披露され怯みはしたものの、能然の期待を裏切らない仕様もない願いを聞いて、安堵と共に逢坂が織姫と彦星が可愛そうだと思えるだけの理由も納得だ。


 こんな馬鹿な願いを聞いていたら、日本だけでも約一億人も居るというのに、キリが無いからな。能然は、逢坂の睨みに気付いたのか、走って席に戻るのと同時に、担任の柊木先生が入って来た。


 俺も何かしら考えておかないとな。


 かと言って、短冊を笹に吊るしたくらいで願い事を叶えてくれるだなんて、これっぽっちも思っちゃいないし、こんな紙切れ一枚書くことなんぞに、真剣に向き合う必要性もまたこれっぽっちも無いのである。


 ただ、能然のように自分に対してどうこうという願いがあるわけでも無く、あったとしてもそんな願い事なら、尚更こんな紙切れに書く気なんてない。逢坂じゃないが、俺も願いがあるのなら少しぐらいは、努力をしたいと思うだけの意志はあるからだ。


 世界が平和でありますように――これでいいや。


 それからは、取り分けて面白いことや、何か事件に遭遇したわけでも無いので早送り――いやスキップ機能で放課後まで飛ぶとしよう。


 そして、放課後。


 最早、お馴染みとなりつつある東雲を校門の前で発見し、これから起こるであろうことの確認と俺のすべきことの再確認をする。といっても、十一時過ぎに現れる銀河鉄道に逢坂朱音を乗車させる――これだけのこと。


 特に確認する程の内容でも無いのだけれど、ここに東雲がいるということは、それだけをしに来たわけでは無いのだろう。


「まだ何かあるんだろ?」


 東雲を察するように先に聞く。

 すると、東雲は小さく頷く。


「明日、恐らく私は介入することが難しいと思われる。だから、今のうちに伝えておくべきことを伝えておく」

「ちょ、ちょっと待て」


 それがどういうことなのか待ったを掛けるも、その言葉の真意を問うことなく、東雲の話が続く。


「明日の十一時に銀河を駆ける鉄道に逢坂朱音を乗車させることがあなたの使命であると言ったが、逢坂朱音を満足させなければ乗車させるどころか、そもそも銀河を駆ける鉄道の出現すらしないので気を付けて欲しい」


 ――え。


「ちょっと待て」


 本日、二度目の待ったを掛ける。


「なに」

「なに、じゃない。そんな大事なことを、なんで今まで黙ってたんだ。もう少し早く言ってくれれば対策だって取れただろうに」

「それは無い」

「何でだ」

「その結果が良い方に行くことは無かったから」

「未来で見てきた俺の行動の結果が――か」

「そう」


 東雲は、必要最低限の動きで返事をする。


「なら、俺が何をどうやって乗り越えたのかだけを教えてくれれば、それだけで全部済む話なんじゃないか」

「それは不可能。夢想空間認識遡行の能力を持ってして、未来であなたがどのように成功したのか、またどのように失敗したのかといった結果を知ることが出来ても、それを伝えることが出来ないように、逢坂朱音に鍵を掛けられている」


 なんでまたアイツは、そんな面倒なことを。


「逢坂朱音からあなたも聞いているはず。世界はそういう風に出来ていて――、そういう風に廻っている――と」

「それが何だって言うんだ」

「あなたは、悉く不可思議な現象に巻き込まれるのが、なぜ自分だけなのかということを考えたことは無い?」

「それは、東雲が前に言ってただろ。俺が鍵で、逢坂が扉だからだって」

「それでは、あなただけに不可思議な現象が起きている理由にはならない」

「なら、何だって言うんだ」

「逢坂朱音は、あなたと共に創る世界に興味を示している」


 俺と共に創る世界だと?

 俺が今まで何を創って来た。


 屋上から靴を投げたのだって、逢坂の作戦通りに、言われた通りに動いただけだ。橘に襲われた時だって、東雲に守られていただけだ。ゲームの世界の時だって、ただポケットに入っていたディストリガーの弾き金を弾いただけ。


 俺は、何一つ創ってなんかいやしない。


「俺は、何もしていない」

「いいえ。それでも彼女は信じている。あなたと創れる世界の可能性を――。彼女は、ドヴォルザーク戦の時に、あなたが覚えているかどうか知らないけれど、こう言っている。『私たちの手でそれを創れたのなら、それって凄い素敵なことだと思わない?』――と。それは潜在的にあなたを彼女は認めているということの表れ」


 私たち――か。


「鍵を掛けているのもそういう理由。私からあなたに、どのような方法を用いたのかを伝えられないのは、あなたがどのような方法を用いて世界を創造していくのか――という可能性に期待しているから」

「逢坂は、俺を過大評価し過ぎてやしないか」

「そうかもしれないとも言えるし、そうでないとも言える」


 なんなんだ、その曖昧な返事は。


「どうであれ、逢坂朱音の命運はあなたに託された」


 そんな面倒なものを勝手に託してくれるな。

 ちょっと待てと本日三回目の待ったを掛けるも、こちらに貸す耳は無いようで、東雲は難題を押し付け、そのまま去って行った。お蔭で、俺は銀河鉄道に逢坂を乗車させるということだけでなく、さらなる大きな課題を負わされることとなった。


 逢坂を満足させるという大きな課題が。

 どうすんだ――俺。



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