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「なあ、そろそろ教えてくれても良いよな。東雲は、これから起こることを悉く当てた――というより、既に知っていたように見えたが、お前も未来予知が出来るような能力者だったりするのか」

「違う。私は、この夢想世界においてだけ能力を許可されている夢想空間認識遡行という能力者」


 また、小難しい単語が羅列されている。


「夢想空間……何だって?」

「夢想空間認識遡行。逢坂朱音の夢想具現連立統合化によって創造されているこの世界を認識することにより、夢想空間内のプログラムに侵入し、存在し無い物体を創造させたり、状況によって時間を遡行することが可能な能力」


 じゃあ、いつだったか橘と戦っていた時に出していたあの盾は、その……えーとまあ、その能力ということか。そんで、時間を遡行ってことは、時を遡るってことだよな。


 そうすると東雲は未来人ということなのか。


「お前は、未来から来たのか?」

「そう」

「何の為にだ」

「あなたを導くために」


 俺を導く――その言葉に俺は首を傾げる。


「まだ何かあるって言うのか」

「それを話すためにここであなたを待っていた。最初に出会った時に、これから起こる全てを話しても構わなかった。しかし、あなたは六月六日の一件を経験しなければ私の言うことを信じることも、耳を傾けることさえもしなかった」

「それは、他の俺がそうだったからか」

「そう」


 だろうな。


 いきなりこの世界は夢だとか、この世界がゲームの世界になるだとか言われたところで、信じなくてもそれは至って普通だ。むしろ、そんな馬鹿下駄話に食いつく方が可笑しいってもんだろ。他の俺が悪いわけじゃない。気に病むな。俺たちは至って普通だ。


「だけど、今のあなたなら私の事を信じられる状態になった。ディストリガーがそう。あれには、私を信用しなければ出現しないようにプログラムを改竄していた。あなたは、私を信用するに至りそれを手にすることが出来た」


 要するに、逢坂の夢想具現連立統合化の暴走を逆手に取って、結果的に東雲は俺を試していたってことかよ。


「で、次は何が起こるんだ」

「彼女を覚醒させる」

「彼女? 逢坂のことか?」


 東雲は、コクリと頷く。


「覚醒させるってどういうことだ?」

「文字通り。逢坂朱音を眠りから覚まさせるということ」


 逢坂を夢から覚ますってことは、逢坂が現実に戻るってことだよな。

 そんでもって、この世界は逢坂の夢で創造されているんだよな。

 そしたら、この世界はどうなるんだ。

 俺は思ったことを全て聞いた。


「どうと言うことはない。彼女が眠りに着けばまたこの世界が形成される。その際に生じるブランクは、あたかも生活していたかのように記憶が創造されるので問題ない」


 それが、問題ない事なのかどうかいまいちピンとこないのだが、取り敢えず東雲がそう言うなら、大丈夫だという認識でも構わないのだろうか。


「逢坂を覚醒させないと、どうなるんだ?」

「彼女が目覚めることはなくなる」

「逢坂が目覚めなくなるってことは、夢から抜け出せないってことで良いのか?」

「そう」


 必要最低限の返事が来る。


「俺は、どうすれば良いんだ」

「七月七日、午後十一時過ぎ。銀河を駆ける鉄道が学校の校庭に現れる。それに逢坂朱音を乗車させること」


 銀河を駆ける列車――銀河鉄道。

 そう言えば、いつだったかこんな夢を見たことがある。七夕の夜に、青白く輝く星のレールを鉄道が駆け抜けていく夢。その列車には俺が乗っていたわけではなく、俺は地上からその様子をただただ眺めていた。


 そんな夢。


「その際の注意事項。あなたは、決して逢坂朱音と共に乗車してはいけない」

「何でだ?」

「その列車は、彼女を覚醒させるためのもの。共に乗車するようなことがあれば彼女の意識が混濁しかねない」


 東雲は、真摯な態度で俺に対して注意を促す。つまり、起きた時に障害になる恐れがあるということらしい。これ程の忠告だ。間違いなく、それを守らなければならないのだろう。


 これは、心しておく必要がある。


「鉄道に乗せるぐらいなら誰でも出来るんじゃないのか?」

「私ではその資格がない。あなたは、逢坂朱音に選ばれた数少ない一人」


 良く分からんが、取り敢えず今はそれで納得しておこう。


「そうかい」


 そう言い、東雲と別れた。


 来る七月七日までは、俺の日常が確約されているらしい。それまで俺は、その日常とやらをのんびり楽しむことにするさ。


 そう言えば、肝心のディストリガーだが、夢想具現連立統合化の能力で世界中の人々が同様にゲームの世界の夢を見ていたのだが、東雲によると夢想具現連立統合化が正常に作動したことにより、起きてしまったエラーに対して事後処理がなされ、その夢を記憶している人はいないらしい。


 つまり、あのことを知っているのは、俺と東雲の二人だけなのだろう。

 しかし、それを記憶していなくともディストリガーというワードが頭の隅に残ったようで、一度くらいやってみたいと思わせることに成功し、その事後処理が返ってマーケティング効果に相乗し、ディストリガーの売上はゲーム史上に残る空前の大ヒット作品となったそうだ。


 その一方で、特殊な電磁波を出し、世界中にディストリガーの販売促進に関する情報操作を行い、脳波に購買を促すように何か仕込んでいたのでは――これは、違法なマーケティング手法であるという見方をする学者たちも現れた。


 なら、学者さんとやら。


 たかだか学生の俺が、こんなことを言うのは非常に申し訳ないのだが、その主張は何から何まで間違っているぞとビシッと言わせて貰おうじゃないか。なんなら、何の見返りもなくその事件の犯人も、その手法も教えてやっても構わない。


 正し、俺の話を信じるならな。


 それにしても、久々に味わうゲームの世界感というのもなかなか悪くは無かったな。一ヶ月という平穏無事な日々が確約されているんだ。久々に童心に戻って、家でのんびりゲームに浸るのも悪くない。


 別に、仲間外れにされるのが嫌でやるわけじゃない。自分の意思で久々にやるのも悪くは無いかなと思ったからやるだけだ。


 そんなことを考えながら、ぼんやりと俺は家路へと歩を進めた。



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