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026


 後日談を少しばかり付き合って欲しい。


 これから、いつもと何ら変わらない朝がやって来るようになった。あの後、どうなったかなんてことは俺には分からないが、千年後の歴史は王国軍が勝利したされているのだから、俺たちは魔王ドヴォルザーグを倒し――序でにその手下、橘も倒し、世界の平和と秩序を守り抜いたのだろう。


 普段退屈な学校でも、あんな世界にいるよりは幾分か安心ではあるが、日常に退屈を催そうものなら、あの世界が愛おしく思えてくるのかもしれない。少なくとも、退屈では無かったからな。


 かと言って、この世界が退屈なのかと言うとそうでもない。俺は、日常と言うものに愛されていたのかと思っていたのだが、どうも俺が日常をこよなく愛していたようで、今ならどんな日常でも受け入れられる自信がある。


 教室に入ると、相変わらず肘をつき、退屈そうな逢坂の様子が朝一番に目に飛び込んできた。


「何かあったのか」


 特に話題があるわけでもないが、なんとなく話しかける。


「別に」


 どうも、いつにも増して不機嫌なようだ。ここはひとつ、退屈でたまらない逢坂に話題を提供しようじゃないか。


「もしも、だ。朝、目覚めたら世界がゲームの世界になっていたら――どうする?」


 藪から棒に話題を振る。


「そんなの決まってるじゃない。魔王に代わって世界を統治するわ」


 逢坂らしい。


 なあ、知ってるか。

 お前は覚えていないのかもしれないが、世界を救ったんだぜ。

 そんでもって、お前がいなきゃ俺は何も出来やしなかった。

 ありがとよ――逢坂。


 さあ、いつものお決まりを待とうじゃないか。心して掛かって来るがいい。


「うおおおおおおおおおッ」


 ドップラー効果が生まれる程ではないが、喧しい声と共に速度を加えて能然がやって来た。まあ、遅く来ようが早く来ようが喧しいもんは喧しいのだが、それでも速度が加えられている分、体感的にはいつもの倍以上に喧しい。


「なんだ、ディストリガーでもクリアしたのか」

「お、良く分かったな」


 こういうパターンもあるんだな。

 俺はお前の成長をこれからも見届けてやろう。


 能然が後ろの逢坂に吠えられるまでの間、能然がディストリガーをクリアするに至る話を聞かされる羽目になった。主人公とその仲間が、ディストリガーを求め旅をするそうなのだが、魔王の攻撃で主人公とヒロインの意識が飛んでしまい、記憶だけ未来に飛んでしまったり、魔王戦直前で仲間が訳合って裏切ったり、どこかで経験したような内容が入り混じりながらその話を聞く。


 能然の話を聞いて分かったのだが、あの噴水に飛び込み意識を取り戻した時のことは、やっと戻れたで正しかったようだ。俺の意識が混濁していたのは、魔王を討伐に向かった俺の記憶と、未来へ飛ばされた俺の記憶と混濁し混乱していたようだ。


 それからはいつもと変わらない光景だった。


 気付けば東雲が既に着席していたり、橘が遅刻し魔王に忠誠を誓っていた土下座を披露したりと何ら変わらない日常だ。


 俺はゲームの世界へ行って思ったことがある。


 それは、結局この世界の日常というものの延長上だったのではないかだろうかということだ。日常を少しばかり楽しくするために、魔法や魔王と言うスパイスを加え、結果的にこの世界とある意味で同じ、面白い世界を演出している――創られた世界、か。


 放課後、東雲が校門の前にいつもの様に居そうだな――なんて考えながら歩いていると、やはりそこに東雲はいた。


「ちゃんと信じてやれてなくて悪かったな」


 今までの分、全てを込めて謝罪する。


「いい。感謝すべき相手は、逢坂。彼女は、夢想具現連立統合化が暴走しても尚、その能力を無意識に使い、あなたを私の所まで案内した。結果的に、ほぼ最短で私の所までこれたはず」


 最短かどうかは分からんが、確かに王立図書館に記載されていないようなことを知っていたり、次から次へと行先が分かっていたようだったからな。


「だから、礼なら逢坂朱音に」

「それなら心配するな。ちゃんとしておいた」


 心の中でな。


「そう言えば、あの悠久の彼方にいたシエル・レオンって東雲、お前だろ?」

「そう。シエル・レオンとは、私のハンドルネーム。私は、魔王ドヴォルザーグを討伐後、時空研究に取り組み、あなたを導けるように準備しなければならなかった」

「それは何となくは分かっていたが、何で東雲の姿であそこにいなかったんだ?」

「私は、そのままの姿でそこにいた。あなたが自分を導いてくれる人を求めるその思いが私の姿を湾曲させた。その夢言葉は、自分を完全な方向に導いてくれる人が欲しい」


 なるほどな。

 ゲームの世界になってから、終始この事態を収拾出来る可能性があるのではないかと、俺は東雲を探し続けた。その思いが、その姿を歪ませていたというわけか。



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