023
葬儀屋を足早に立ち去り、逢坂の決めた次の行先とやらに向かう途中、道具屋に立ち寄った。
道具屋には、薬草やら聖水やらゲームの定番となるようなアイテムの他にも、箒や塵取りと言った日用品まで扱っていた。どちらかと言うと、道具屋と言うよりは雑貨屋と言った印象だった。
「お、あったあった」
逢坂は、スコップを手にしている。
「スコップなんて何に使うんだ? 落とし穴でも掘るのか?」
「そんな子供みたいな真似する訳ないじゃない」
屋上から上履きを落とすことを考えた奴の台詞とは思えない。
逢坂は、手早く会計を済ませるとスコップを俺へ手渡した。何も言わずに押し付けて来ると言うことは、持てと言うことだろう。仕方なくそのスコップを受け取り、訳も分からないまま道具屋を後にした。
そして、逢坂の勢いそのままに着いて行くと、何故か大賢者東雲の墓までやって来るに至ったわけだが、スコップを手にし墓前に立っているとまるで墓荒しみたいじゃないか。
「さあ、掘るわよ」
墓荒しでした。
「出来るか。この罰当たりめ」
「良く聞きなさい。大賢者東雲の魂は千年前に亡くなったとされている。だけど、なぜかまだ魂が消滅していなかった。これが、どういう意味だか分かる?」
「いや、さっぱり分からん」
「少しは、残された数少ない脳ミソで考えて発言しなさい。そもそも、墓ってどういう時に建てる物?」
「人が死んだ時だな」
「それなら、大賢者東雲が死んでいないと分かった今何か可笑しいことがあるでしょう」
おお、なるほど。
「この墓が墓として機能していないってことか」
「その通りよ。この中には、遺体が奉納さされているとばかり思っていた――、いや、私たちが勝手に思い込んでいただけね。まあ、あると思っていたものが無いのなら、代わりに何かがあるかもしれないってことよ」
これは理に適っている、のか。
「なあ、一応大賢者様の墓を荒らすんだよな。見つかったりしたらヤバいんじゃないのか」
「そうね、禁固百年ぐらいで済むんじゃないかしら」
禁固百年ぐらいってなんだよ。それって、もう遠回しに死ねってことだよな。
「大丈夫よ。もしばれたら、私に命令されてしょうがなくやったって言ってくれても構わないから」
こんなやりとり以前にもあったよな。
俺がこの場を立ち去る事なんて何の造作も無いことなのだが、今以上の進展を得られないこともまた事実であり、結局の所、やるという選択肢以外に俺は持ち合わせていないのだ。
心の中で畜生と叫び、致し方なくスコップで無気力に手を進める。例によって、逢坂は腕を組み仁王立ちで現場指揮を取っている。二人でやれば作業が効率良く進むんじゃないのかと苦言を呈するも、私が汚れるじゃないのよとあっさり却下された。
もともと、期待しちゃいねえよ。
暫く掘り進めると、何か固い石板のような――いや、これは違う。この石板のようなものに沿って掘り進めていくと、その全体像が露わになった。
これは、棺か。
「でかしたわ。開けるわよ」
どこぞの盗賊の如く、山賊の如く、海賊の如く、脱兎の如く手柄を全て奪い去って行った。俺の汗と涙と泥の結晶を返せ。
「何してんのよ。早くそっち側持ちなさいよ」
手が汚れるのは良いのかなんて思ったが、まあ別にいっかとそんな雑念は丸めてどこか遠くにでも投げ捨て、逢坂に言われるがままに、反対側の棺の縁をせーのという掛け声と共に開く。
てっきり何か手掛かりになるような物が入っていると思っていたのだが、中にあったのは階段だった。どこまで、続いているのか先も分からない階段が、ただただ下へ下へと強要してくる怪しげな階段が目の前にあるのだから、この逢坂が目を輝かせないわけもなく、また入らないわけもなかった。
なぜか、両側を松明が力強く燃え盛ってくれているおかげで、視界が悪く見えないということは無かったのだが、そんなに下っていないのか、それとも意外と下っているのか、その感覚が今一つパッとしない。
この説明で上手く伝わっているのか分からないが、要するにこの階段は何か可笑しいということだ。
最深部に行きついたのか、古惚けた扉が見えてきた。もしも、ゲームなら重要な手掛かりの一つでもありそうな雰囲気だ。いやいや、よくよく考えたらもしもゲームならではなく、ゲームなんだっけ。
「如何にもって感じね」
「なあ」
嫌な予感のする俺は、先に一つ逢坂に聞いておく。
「何よ」
「この扉を開けたら、魔物が襲いかかって来るなんてことは無いよな」
「そんなの私が知るわけ無いじゃない」
確かにそれもそうだ。
だが、もし魔物が突然襲ってきたりしたら俺は丸腰だ。丸腰の上に実戦経験皆無の冒険者だ。村人Aと能力だってなんら変わらないはずだ。そんな俺に魔物が攻撃でもしてこようものなら、一撃でやられる自信がある。
「じゃあ、開けるわよ」
「おい、ちょっと」
俺の声を当然の様に無視した逢坂が扉を開ける。もういっそ襲われるつもりで、目を瞑って待ってみる。しかし、待てども何かに襲われそうな気配はない。ゆっくり瞑った目を開く。
そして、扉を開いたその先は――ただの殺風景な異空間だった。




