020
「で、どうやって千年も時を遡るんだ」
逢坂は、ふふんと鼻を鳴らす。
「取り敢えず、王立図書館に行くわ」
「王立図書館? そんな所で何をするんだ」
「そこで、『悠久の彼方』について調べるわ」
悠久の彼方。ゲーム用語か何かか。
「私も大して知らないんだけど、遥か昔、時空に関する研究がされていたらしいのよ。でも、この研究は完成には至らなかった」
「何でだ?」
「時空研究の第一人者、ノエル・レオンが時空実験事故に巻き込まれその姿を消したからだそうよ」
「そして、行き着いた先が悠久の彼方というわけか」
「そう。でも、面白いのはここからよ。この時空実験に巻き込んだのはノエル・レオンだけじゃなかったのよ」
「他にも被害者がいたのか」
「いや、人間じゃなくてその周囲数百メートルごと消えてしまっているのよ。そして、その小さな大陸、悠久の彼方はこう呼ばれているわ。時の大陸、クロノシア」
時の大陸、クロノシア。何か良く分からんが、いかにもゲームって感じになってきたな。
「一応、ノエル亡き後もその実験は他の学者によって引き継がれたらしいんだけど、この研究を理解出来る者は誰一人現れず、この研究は未完のままに研究施設はそのまま隔離されたってわけ。まあ、これもこの世界に伝わる神話の様なものなんだけどね」
恐らくこの世界の設定と呼ばれるものなのだろう。だとしたら、何の意味のない話だとは考えにくい。取り敢えず、この世界について、三賢人について、ノエル・レオンについてくらいは調べないと先には進めなそうだな。
「じゃあ、行くとするか。その王立図書館とやらに」
俺は、一歩踏み出そうとしたところだった。襟元をグイッと引っ張られ、俺は思い切りその場で咳き込むこととなった。
「何すんだっ!」
「何であんたが仕切ってんのよ、リーダーは私よ。ほら行くわよ、付いて来なさい」
そう言えば、こいつはこういう奴だった。
そんなこんなで、話しているうちに王立図書館に到着した。
これが、図書館なのかと思わせる豪壮な図書館で、王族の名の下に管理されているだけのことはある。扉を開けるのも一瞬躊躇したくなるのだが、逢坂が堂々と入って行くので、その後ろを付けるようにこそこそと入って行った。
頼もしいリーダーだこと。
中に入ると、そこは思わず見とれてしまう程凄い光景であった。俺の家の近所にある市が運営する小さな図書館には申し訳ないが、それとはわけが違う。ここで探し物をしたら見つからないものが無い、そんな感じのする図書館だ。
「ここは、全世界の知識が詰まっているとも言われる図書館で、通称知識の泉。基本的に無いものは無いと思うわ。恐らく、何らかの手掛かりぐらいは見つかるでしょ」
何の根拠も無いが、なんか本当に見つかりそうな気がしてきたな。
「手分けして、探しましょ。そっちの方が効率良いし。私は、千年の時を遡る方法を調べるから、あんたは残り全部ね」
そう言い残し、早々と去ってしまった。こういうのって、普通だったら半分ずつするものじゃないのか。興味のあるものだけ食いついて、残りの雑務を全部押し付け、知識の泉の中へ飛び込んで行った。
なんか、ゲームの世界にやって来たというのに、いつもとあまり変わらないような気がするのは俺だけだろうか。皆に記憶が無いのだから、俺だけなのだろうけれど。調べなければ始まらないので、逢坂の傲慢にもめげずに俺は調べた。
まず、この世界について。
この世界は、地の大陸テルシニア、水の大陸ネプチュニア、火の大陸バルカニア、風の大陸アイオロシア、空の大陸ウラノシアの五つの大陸からなっており、俺が今いるのはテルシニア大陸らしい。
この世界は、千年前に災厄の日と呼ばれる王国軍と魔王軍との戦争があり、その際に東雲を筆頭に他賢人たち二名が魔王軍を退かせ、この世界を救ったというのがこの世界に伝わる歴史らしい。
そして、賢人について。
この三賢人というのは、賢人、剣人、鍵人からなるこの三人を三賢人と呼び、災厄の日から救った英雄として崇拝しているらしい。そこで、調べているうちにあることに気付いた。
注目して欲しいのは、もちろんこれだ。
鍵人。
以前、俺のことをこの世界を救うことの出来る鍵だと東雲が言っていた。勝手な思い込みなのかも知れないが、この鍵人は恐らく俺のことを指し示しているのだろう。
もし、俺の憶測が正しかった場合、これは重要なことを指示している。俺がどのような手段を用いたのか分からないが、どうやら千年の時を越えたという事実が見えて来るのだ。
俺のこの憶測が正しければ――だが。
そして、ノエル・レオンについて。
このノエル・レオン、時を超える為の唯一の手掛かりなのだが、不思議なことに情報が一切出てこない。出生地、生年月日といったあらゆる情報がすべて詳細不明とされているのだ。
確か、時空研究の第一人者と呼ばれていたのだろう。なら、それに関する文献があるはずじゃないのだろうか。
それとも、公に出来ないような情報があり、それを隠す為にノエル・レオンに関するあらゆる情報が規制されているのだろうか。そもそも、王立図書館の書物ですら記載されていない内容を、何で逢坂が知っているんだ。
取り敢えず、調べ物は終わったから一旦、逢坂と合流するとしよう。




