018
東雲が言っていたことが、本当なのかどうかということは、明日になれば分かることだ。だから、この際もうどうでも良い。ここまで来たら、明日という日が一体どのようにゲームの世界に変貌を遂げるのかをこの目で見届けてやろう。
もしならないのであれば、それはそれで良い。むしろ、それに越したことは無い。俺がただ少しばかし寝不足になるだけで、世界は救われるのだからな。さあ、それならどう明日を迎えてやるものか。
なんて考えながらも、食事をし、テレビを見て、漫画を読んで、風呂に浸かり、一息を付いたところでやっとダラダラと無駄に過ごしてしまったことに気が付いた。
時刻は、十一時五十七分。
武器や装備品とかは、揃えておいた方が良いのだろうか。取り敢えず、このパジャマ姿から私服へと着替えておいた方が良いだろう。万が一にでも恥ずかしくない格好をしておいた方が身のためだからな。
十一時五十八分。
別に気にする必要なんて全くないのだが、机の上に乱雑に置かれた教科書や漫画などが妙に気になりそわそわとする。テスト勉強をしようとする時に、まず整理整頓から始めるのと同じ感覚なのだろう。
十一時五十九分。
何かを迎える時の日本人としての癖なのか、なぜか正座をして待っている自分が居る。意識的にではなく、全くの無意識で。これから訪れる招かれざるお客を待つ為に。
〇時〇〇分――。
重力のような、目に見えない何かが体全体に纏わり付き奈落へ引きずり込もうとして来る。俺は、その重力に耐えきれずに思わず四つん這いになる。これは予想していた以上にきつい。
四つん這いになっていた右手の床が抜けた。小さな穴が開いた床は一気に崩れ落ち、俺は底の見えない奈落へと誘われた。
六月六日、〇時〇一分。
そして、世界は――崩壊した。
カランカランと、世界中の人々に夜明けを伝えるように力強く鳴り響く鐘の音。俺は、目を閉じたままその余韻に浸るように耳を傾けた。なんて綺麗な鐘の音色なのだろう。
ずっと聞いていたいとそう思わせる鐘の音――えっ、鐘の音。
慌ただしく起き上がり、窓から外を一望する。そこには、活気付いた町のような光景が広がっており、その先には城がある。これは、城下町というやつなのだろう。
まさか、本当にゲームの世界になったというのか。
深い溜め息をし、嘘だろ――と、小さく俺は呟いた。
東雲の言っていた通り、この世界はゲームの世界へと変貌を遂げた。俺のいた世界の片鱗すら見当たらない。こうなってしまった以上、俺はまず東雲をなんとしても探し出し、この状況について問い詰める必要がある。
だが、どうしたものか。
この変化に順応するために、まず家の中から散策してみることにした。自室、リビング、トイレ、ダイニング、風呂あらゆる部屋を見て回り、あることに気付いた。
タンスや机、イスといった自然素材を用いているような家具は、使っていた物と限りなく似ている別物に代わっていた。
しかし、電話やテレビ、洗濯機といった科学技術を用いるような製品は家の中には全く無くなっており、荷物であったり置物であったり、全く違う物がその代わりとしてそこに置いてあった。
この様子を察するに、文明が俺のいた世界より遅れている、若しくわそもそも全く異なる文化を歩んでいるようだ。
家の中をいくら散策したところで、これ以上の情報を得るのは難しそうだと見切りを付け、家を出る。そこは、なんとも活気づいた城下町が広がっていた。俺の世界で言うところの、商店街のようなものなのだろうか。
大勢の人々が入り乱れるようにして、愉快に楽しんでいるように見えた。
だが、俺はこの愉快な雰囲気に浸るわけにはいかないのだ。兎にも角にも、この状況を収拾出来るであろう東雲を探し出さなければ、恐らくこの世界から戻れない気がしてならないからだ。
情報を集めるといったら、やはりゲームの基本から習えば恐らく酒場なのだろう。ゲームの世界と言えど、未成年は酒場にどうどうと入っても大丈夫なのか。まあ、取り敢えず覗くだけでもと窓から様子を見てみると、見慣れた人物が伺えるではないか。
逢坂朱音だ。
見慣れた人物が目に入った俺は、そのまま酒場へと入って行く。
「おい、逢坂こんなところで何やってんだ」
「誰よあんた。馴れ馴れしく私の名前を呼ばないでくれる。あんたみたいなのに私の名前を呼ばれるだけで、汚されている気がするから止めて」
おいおい、ちょっと待て。
なんか、出会った頃に似てないか。むしろ、似ているどころか同じじゃないか。俺はこれをどこかで経験している。まあ、いつ、どこで、誰が、誰と、どのように経験したかの全て把握しているがな。
最近、これをデジャブだなんて言う奴が多い様だが、これは決してデジャブなんかではない。実際は一度も体験したことがないのに、既にどこかで体験したことのように感じることを指すので、これは全くの間違いだ。とまあ、薀蓄を披露したところで本題に入ろう。
「こんな状況で何の冗談だ、逢坂」
「あんた、私の話聞いてた? 私の名前を慣れ慣れしく呼ばないで言ってるのが分からないの?」
「待て待て、まさか本当に俺が分からないのか?」
正直、予想外だった。
ゲームの世界になるとは聞いていたが、まさか初めからの状態で始まるなんて思っても、考えてもいなかった。逢坂がこの状況ということは、恐らく他のみんなもこのような状況なのだろう。
だとしたら、東雲も俺と出会っていない頃の状態になっているんじゃないだろうな。そうなると、この世界の変化を理解出来ているのは、俺一人ということになるじゃないか。




