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015


 そして、次の日。


「おいおい、如月。ビッグニュース、ビッグニュース」


 聞き覚えのある声と共に同じような流れでやって来れば、それがあいつでないことを求めるもそうであるわけもなく、相変わらず五月蠅い織兼から今日も一日が始まるようだった。


「なんだ。また、転校生でもやって来たか」

「んなわけねーだろ」


 こちらも冗談で言っているのだが、相手が能然のような馬鹿では挨拶にも至らない程度の冗談でも気付いて貰えないとなると、なぜだか心の奥底が寂しいだけでなく、なんだか俺が馬鹿みたいじゃないか。


「じゃあ、何があったんだ」


 傷心の俺は、素っ気なく聞く。


「聞いて驚くなよ。昨日、とある不可思議な現象が、また新たに七不思議に殿堂入りしたんだが、どうだ気になるだろ?」


 新たに殿堂入りされたって、もともとあった七不思議はどうなったんだよと聞くのも億劫なので、新しい七不思議が出来る度に古いものから順に消去されているのだろうと、勝手に感得しておいた。


「話したいなら、聞いてやってもいいぞ」

「なんだかんだ言って、聞きたいんだろ。しょうがないな、教えてやろう」


 話したくて堪らない能然は、勝手に話し出す。


「実は、昨日の放課後、屋上でなんと巨大な光の球が現れたんだってよ。そんで、それが大爆発したのをグラウンドで部活してた奴等が見たんだってよ」


 俺は固まった。

 そして、ものの数秒のことだが、俺にはその数秒間で昨日の出来事が何周も脳裏を巡っていた。


 突然、澪市いおみに殺されかけたこと。

 ここが、夢の世界であること

 逢坂朱音がただの人間ではないこと。

 六月六日にゲームの世界になること。


 これらを一気に理解するよう言われたところで、全てを飲み込めるわけがない。こっちは、襲われているというだけで、もう既にお腹一杯だと言うのに、あんな与太話に付き合ってやれる程、俺は優しい人間ではないのだ。


 だが、この噂話が流れていると言うのは少々気になる。

 あの時、確かにこちらからは大声で叫んだのにも関わらず、まるで聞こえていないようだった。もしかしたら、俺の姿さえも向こう側からは見えていなかったのかもしれない。しかし、実際グラウンドにいた人たちには、光の球も見えていて、爆発音も聞こえている。あの時、確かに橘は向こうとこちらを断絶していると言っていた。


 それを信じることは、橘を信じることにも同時に繋がるので、正直それを全て鵜呑みにしたくは無いのだが、あの話を信用するのなら睡眠と覚醒の中間の空間にいたあの瞬間は、恐らく光の球が見えていたり、爆発音が聞こえていてはいけないはずではないのだろうか。


 内側と外側とでまた何か違うということなのか。

 それとも、橘がとんでもなくずさんな結界を張ったのか。

 在り得そうだが、そんなこと馬鹿馬鹿しくて考えたくも無い。


「本当なら、確かにビッグニュースだな」


 その事件の中心にいたにも関わらず、俺は余所余所しく答える。


「まあ、七不思議って言うくらいだから、どうせなんかの見間違いだと思うんだけどな。って、やべ。逢坂が来た。じゃ、また後でな」

「おう」


 そそくさと能然が退散し、入れ替わる様に後ろの席の御陽が着席する。

 相変わらず機嫌の悪そうなこった。

 俺はふと思う。


 東雲の話を信じるならば逢坂は、えーっと、夢想具現……連立……統合化と言う能力者ということになる。おお、言えるじゃないか。心の中で自身に称賛を贈る。そんなことはどうでも良いのだが、果たして逢坂は自分が夢想具現連立統合化という能力者であることを自覚しているのだろうか。


 まあ、俺が気にする必要のあることではないのだが、それでも考えずにはいられない。そもそも、初めからそんな能力が無いというのであれば、それに越したことはないのだが。


 あれ。


 考えるのを止めた筈なのに、次から次へと余計なことを余計に考え出してしまう。元々、何かを考えることとか嫌いではない性か、ありとあらゆる可能性というモノを考慮してしまうようだ。もしかすると俺は、この状況にワクワクしているのか。


 いや、まさかな。

 隣の席に人が来た気配がある。


 もちろん、東雲だ。

 あたかも何事も無かった様なその毅然とした態度は、何処となく気に喰わない。だが、橘に殺されかけたところを助けてくれたという事実は、俺が気に喰おうが気に喰わなかろうが変わらない、唯一無二の真実なのだ。


 ただ、それを認めたくないだけなのだろう。殺されそうになるという在り得ない状況を、信じ難い話を多々羅列するような奴に命を救われたということを。だけど、俺は伝えなければならない。たった一言でも感謝のその言葉を。


 最初の一歩を踏み出す。


「なあ、東雲」

「なに?」


 踏み出したのなら、後はもう伝えるだけだ。



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