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八章 灰空の下を駆ける

 大国にとって、いや、自国でも世界中でも必要とされている新資源PSMの栽培はこれからの未来の為に行われている重要業務のひとつである。ヘマなんてすれば最悪犯罪にでもなりかねない。

 だが、数日前隣国が投下した核兵器から拡散された放射線によるPSMを含んだ栽培用植物又は作物が汚染し、遺伝子崩壊を起こしたことで全く別のものに突然変異した。

 セイマの話によると、その変異が激しく、大国の監視役員にまで目をつけられる程問題的な産物になったらしく、どういうわけか、それを理由に連帯責任として栽培関係の職員を「選抜者」として、つまり家畜奴隷の「人材」として大国に搬送されることになった。しかし、責任者である私を会社へ呼びつけないと、会社員全員を選抜者にするという無茶苦茶な脅しをしてきたのだ。

(どういう環境で過ごせばそんなイカれた考え方ができるんだよ……っ!)

 罪と罰に拘り、後先を考えない馬鹿な大国人の理不尽さに苛立ちを覚える。

 私は急いで店を出、会社へと全力で走る。

 切羽詰ってたのでイノには何も事情を話さずに勝手に行動してしまった。後ろを見てもあの白髪頭はどこにもいなかったのであそこにまだいるのだろう。置いてきてしまったことに申し訳なさを感じるが今はみんなの命が優先だ。選抜者は死を意味するのだから。

(私一人の責任で全員の命奪うってどんな理不尽だよ!)

 私は心の中で叫ぶ。空を見上げれば、また雨が降ろうとしていた。


 会社に着き、正面入り口に入り、エレベーターは使わず、階段を使って駈け上がる。

 息切れを起こしながらも、必死でワークルームへと急ぐ。扉は目の前。

 私は勢いよくドアを開けた。

「はぁっ……はぁっ……はぁ……はぁ…………」

 息を切らしながら私は周囲を見渡す。全員が驚いた表情でこちらを見つめていた。みんな無事なようだ。

「はぁ……はぁ……しょ、職員の人たちは……ぜぇ、ど、どうなったの?」

 すると、この職場の部長がこちらに来る。申し訳なさそうに目を瞑り、そして口を開く。

「みんな無事だよ。よく、来てくれた……!」

「え、と……大国の役員の人……方々は……?」

「……あぁ、居られるよ。

 ―――君の後ろにね」

 え、と言ったときにはすでに遅く、手を後ろに回され、身を前へ倒される。手首にガチャリと音がし、腕の自由が利かなくなった。そして首に何かつけられた瞬間、首の周囲に何かで刺されたような痛みが走り、痺れるような感覚が伴う。

「―――っ?! っ?!」

 ただ唖然とすることしかできなかった。

 だが、目の前のみんなの目を見れば、すぐに理解できた。

 ああ、騙されたんだな、と。

 大国人であろう軍人2人に押さえつけられたが、それでもこの冷たい床から自分と仲が良かった同僚の顔が見える。

 何かに堪え、歯を食い縛り、罪悪感と申し訳なさでいっぱいになっている眼を逸らした友人の姿が。他の人も同様だった。

 ははは、権力とは恐ろしいものだ。やはり強大な力の前では従うしかないのだ。

 職場の奥から他の人とは顔立ちと目の色が異なる長身の人が出てくる。大国人のようだが、立派なスーツらしきものを着ているのでこの中では一番偉い方なのだろう。

「いやはや、自分からきてくれるとは何ともありがたい。自首してくれた君に感謝するよ」

 この国の言語を巧みに話し、その人物は皮肉を言うが、私は沈黙を続けた。

「しかし、考えてもみたまえ。新資源とはいえ、栽培しているその一部が遺伝子崩壊ジーンコラプスした程度で大事な奴れ……いや、職員を連れて行くわけがなかろう」

「……」

 そうだ、冷静に考えてみれば罠丸出しじゃないか。自分の今の立場を考えたら分かることだろ。

「その白濁しかけた眼は、きっと何故自分が被曝し、その未完成の人間兵器から異質な身体へ変異していることを我々が知っているのかと訴えかけているようだね」

 それではお答えしよう、と楽しそうに大国人は語る。

「君を手術したある医者から監視役所へ報告したのだよ。限られた命を不自由な病院で無駄に過ごさせるのも可哀想だったから、独断で君を自由にさせたが、暴走してしまっては大変だと後々思ったとのことだ。あぁそういえば、今さっき連絡が入ったんだが、君の自宅から遺体が発見されたそうだ。それ以前に家中見たことのない奇妙な蛆が大量に繁殖していたから部屋ごと焼却しておいたよ。すまないことをしてしまったね。いや」

 もう帰る場所などないか、とその異国人は嘲笑する。

(……とうとうあの医者まで裏切ったか)

 だがそれは国で被害が出ないかという心配の上での行動だ。最初から私を騙すつもりはなかったと思う。平等的に優しい医者だ。

「さて、君一人の命でこの会社のみんなが助かるわけだが、どうだね、なんだか国民の為に犠牲になる英雄にでもなった気分だと思わないかね」

「……」

「黙ったままか。まぁ良い。命を乞い、泣き叫ぶよりは十分にマシだ。連れていけ」

 私を抑えていた2人の軍人は無言のまま私を立ち上げ、前へ進めと言わんばかりに背中を強く押した。

 だが、後ろから荒々しい物音が静寂な空気を打ち消した。私が振り返った時には、

「うぉりゃあああああああああああああああああ」

 ふたりの友人が軍人を押し倒していた。

「連れて行かせるかよ!」

 ひとりは叫ぶ。そして手に持った金属棒を軍人顔面に殴りつける。

 ほかの社員もそれにつられるかのように加勢しようとしたときだった。


―――――ドォンドォン


 乾いた銃声が響く。まるで時を止めたかのように場は静止した。

「……っ、嘘だろ……おい」

 私はとうとう声を漏らした。

「はぁ……この俺が警戒の対象外になるのもつまらん話だな」

 さっきまで愉快に話していた大国人の手には銃が握られており、その銃口の先は私の友の背中に向けられていた。

 目の前にいた2人の友人の胸から弾丸が貫通し、血が噴き出す。その飛沫が顔に付着する。

 そして、ふたりは膝を突き、冷たい床に倒れる。

「――――っアマノ! セイマ!」

 私は叫んだ。まだ微かに動いている。まだ生きている。

「―――いいから早く逃げろ! 隙を無駄にすんじゃねぇ!」

 無口なはずのアマノの口から怒鳴るような叫びが耳に響いた。

「さっさといけぇ! ミカドぉっ!」

 セイマは倒れながらも、上体を腕で支え必死に起こし、その眼をぎらつくほど強く、私に訴えかけた。

「……畜生っ」

 私は駈け出した。手は不自由でも脚は動かせる。死に物狂いでその場から逃げた。

 背後から再び銃声が鳴る。その音は二回鳴った。

「……ごめん……ほんとうにごめん……っ!」

 私は会社を出、必死で走った。手錠はいつの間にか外れ、手の自由がきくようになった。

 何故手錠が勝手に外れたのかなど考える余地もなく、私はあの教会へと向かった。


今日はふたつ投稿します。

次回がアレですね、グロ回です。

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