第五層
「で、コトさん?なんで俺な訳ですか」
「貴方が目の前で暇そうに歩いているのをこの間見かけたから」
「心当たりはあるが、あれは寝ないで四層でLv上げやってたんですよ」
「そう、それじゃぁとりあえず私の推薦で」
「趣旨変わってないですか?」
「うるさい」
ゲーム環境内の疑似の太陽が照り続ける中、突然現れた【朱の零騎士団】の団長「コト」に半ば強引に連れられて現在群衆をかき分けるようにして進んでいる。
無駄に凝ったシステム設定のせいか、太陽にも温度変化が組み込まれているようだ。そしてその日差しが疑似の体の温度上昇を促している。自室もしくは病院で安置されている自分の生身の肉体には全く影響はないがバーチャルの中ではかなりの影響力がある。
その証拠に、額には玉の様な汗が伝っている。
実際の所年頃であれば色々と汗の匂いなど気にするところだが、システムには設定されていないらしく匂いは発生しない。その為既に汗を匂いで気にすることは無くなった。
だが、戦闘となれば別である。時にはその汗が目に入り戦闘時に致命的な隙を与えかねないのだ。そのリスクを最小限に抑えるために【温暖耐化】というスキルがあるが、生憎それと反対の効果を持つ【寒冷耐化】と同様に第10層のボスを倒す事で解禁となるスキルである。
現時点では第四層までしか踏破出来ていないため、そのスキルを使える者は誰ひとりいない。この情報はゲーム内で閲覧できる【ルーキーコンソール】というタウンのシステム端末を使って閲覧できるようになっている。
具体的には第十層クリアで使用できるようになる寒冷耐化などの【スキル呪具】の内容。
そして強化される【スキル呪具】の一覧、第十層のボスモンスターの簡略ステータスなどが含まれている。
あくまで「ルーキー用」のコンソールであるのでそれ以上の情報は更に10層上の第二十層にある【ノーマルコンソール】を使う必要がある。その後は暫くその【ノーマルコンソール】を駆使して三十層進んだ第四十層に行く必要がある。そこにあるのが【ハードコンソール】で七十層までのデータが閲覧できるようになる。それ以降は全くの情報が無い状態で更に上を目指さなければならないという設定になっている。
そのせいでこの太陽が照りつける中を歩かなくてはならない。
唯でさえ連日の潜りで精神力をすり減らしているのにこれでは休む暇すらない。
それに対して団長様は堂々と無い胸を張って歩き続けている。
「で、行くとしてもどこに行くおつもりで」
「第五層ボスダンジョン」
「ちょ、何する気なんだよ」
「ギルドランク上げ」
「あぁそういう事ね……」
ギルドランクはその名の通りギルドのランク(階級)を表すものでE→D→C→B→A→S→SSという順で上がっていく。それと同時にホームと呼ばれるギルドハウスが与えられる。
それもランクに比例している。ランクが高い程広く大きいホームが利用できるようになるのだ。
【朱の零騎士団】は現在Dのランクを保持している。大体200近くのギルドがある中で、唯一Dランクに到達しているギルドとなるのでそれなりに知名度は高い。
少なくとも名前を上げればなんとなく聞いたことがあると分かる程である。
そのギルドランク上げとなると相当な努力を要する。つまりは補充要員(新入り)として新たに朱の零騎士団に入れようというのだろう。
「それで、なんで俺なんですか」
「その場にいたから」
「いや、そういう事じゃないんですけど」
「じゃぁどういうこと?」
「なんであの大勢の中から俺を?」
「貴方のレベルが9に到達しているからよ」
確かに俺のレベルは9に達している。だがしかし他にも同じLv9に到達したプレイヤーは居る筈だ。少なくとも100人単位で居ると思っている。
その証拠に以前仮パーティーを組んだプレイヤーの中にもLv9のプレイヤーは確かに居た。
「それ以前にあなたが神無月だからよ」
「……どうしてそれを」
「言動から性格から、色々と似ているのよ。貴方の父親にね」
「……俺を捕えたい理由は何だ?」
「決まっているでしょ。このハックを解く鍵、Cキューブについて聞く為よ」
Cキューブ。それはこの死に呪われた世界から脱出するために残された最後の望みである。
だがCキューブという単語は俺以外には知らないと思っていたのだが……。
「知っているのでしょ?大幸社長の息子、神無月信也君?」