神のみぞ知る世界であった場所
VRMMO。それは人類が目指した新しいもう一つの世界。
仮想空間であるとしてももう一つの自分をロールすることが出来る自分が作る世界。
同時に、世界の人間と直にコミュニケーションをとる手段の一つとなっていった。
2025年。VRS開発部門は国家予算を足しにしてファルス社を設立。
そのファルス社の出した家庭型汎用VR機器、フォルスシードを使ったVRMMOゲームである【Black Of World】の発売日が間近に迫ったある日、完成したゲームのβテストが行われることになった。参加希望者は凡そ40万人を超えていたという事実がニュースとなって流れていた。その中から抽選で選ばれた10万人が一昨日、一斉にログインした。
風評も性能も抜群で、ファルスへの電話は止まないと予測されていた。
それはその二日後。βテスト公開から二日後に全員を招いて第一回テスト評価会が開催される筈だった。だが、結局その事件は起こった。
様々な狩場でプレイを楽しんでいたプレイヤーは全員始まりの町である【グリニッジ】にバラバラに転送された。そこまでは緊急時用のプログラムのバグ動作やその他を確認するための意図的なシステムコールだという事が事前に公開されていた。
だが問題はそこからだった。GMが現れ、全員のプレイヤーにリストが流された。
ホログラムに表示されたメール文案に書いてあった項目は至って簡略化されたものだった。
「差出人:GM
宛先:全プレイヤー様
題名:βテスト評価
本文:この度はβテストを行っていただき誠にありがとうございました。
見つかったバグなどは修正が完了し、後は発売を待つのみとなりました。
重ねてお礼申し上げます。
お疲れかと存じますが、今回のβ版に対する評価を各項目1~5で付けて下さい。
1.装備、及びスキル性☆☆☆☆☆
2.自由度、現実味☆☆☆☆☆
3.VR空間での感覚野の精度☆☆☆☆☆
4.バーチャルデータのアビリティ、及びステータス性☆☆☆☆☆
5.ファルスに対する全体の評価☆☆☆☆☆
」
各プレイヤーたちはそれぞれ自分が
思った通りの評価を付けただろう。その大半は恐らく高評価の物だったはずだ。
そこにいた一人の少年もまた、ホログラムの星をタップして評価を行った。
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黒のフードで顔を隠した少年は無造作にメールの送信ボタンをタップした。
身長は少し低めで、腰には双銃を携えていた。
メールの評価を終え、一息つこうと空を見上げた時だった。
突然、目前に【…System☤Error…】の赤文字が浮かび上がりそれに目を奪われる。
すると突如、アイテム欄の装備が一斉に消え、Lvも当初の1Lvにリセットされ始めた。
そのころには既に怒り狂ったテスターたちが抗議の声を上げつつも、ログアウトしようとしたが、ログアウトを押すと【…System☤Error…GMに連絡してください】との一点張りでログアウトできなくなっていた。
その時、システムアナウンスの音声で急なシステム放送が行われた。
「我々はBO。VR技術を認めぬ海外に展開する対VR派の者だ」
そうアナウンスが流れるのと同時に、
「ふざけんなよ!」「はやくログアウトさせろよ!」「これってイベントだよね……ねぇ?」
という様々な声が周囲より湧き出てくる。俺は無言でその放送を聴き続ける。
だがアナウンス側に声が届くはずもなく一方的な犯行声明は淡々と続けられた。
「今回、愚かなVR技術を崇拝するお前たちに罰を与えに来た。
お前たちがログアウトできる方法は一つ。ファルスの塔95階層の頂点にあるマスターキーを入手すればそれによってこのデスゲームをクリアできる。
但し、この世界での死は蘇生能力を持たない。つまりは死んだ者は現実でも死ぬ。
それも、脳死だ。フォルスシードによって送られる膨大なデータ処理によって、
脳細胞が死滅。生命活動の停止が見込まれるだろう。
我々はファルスを占拠している訳ではないという事を忘れないでほしい。
この日のためのウィルスを10年かけて作り上げた。破壊することは不可能だ。
あらゆる方面からのデータ攻撃を弱体化、バックシステムによってそれらを吸収し、
強化していくという画期的な自立ウィルスだ。この音声メッセージは、
プレイヤーも含めてファルスの管理本部にも流されている。
無理に電源を切ろうものなら意識だけがフォルスに取り残され結局脳死に陥るだろう」
その一言と同時に俺達全体を光の輪が包む。軽く目をつむってまた開くと元あったフード越しの視界ではなくきちんと開けた視界が広がっていた。
「んな……」
アイテムリストを開き初期配布アイテムの手鏡をジェネレート、鏡に映る自分を確認する。
そこにはフードを脱いで初期装備であった「レザークロス装備」に身を包んだ自分の姿があった。それに驚くものは誰もいないが大抵の人間が自分の姿の変化に気付いている。
「それではデスゲームの開始と行こう。幸運を祈っているよ」
その言葉を最後にアナウンスは途切れ、GMは強制ログアウトさせられた。
あとのグリニッジには取り残された人たちが残された。
それと同時に一斉にログアウトが始まった。
「なんだ、大丈夫じゃないか」「何がデスゲームだ!」「全くなんだったんだアイツら」
そう言いつつ次々とログアウトしていく人たちの光を見つめながらふと考え事をする
奴らがこの程度の対策を予測していない筈がない。俺の悪い予感は的中した。
ログアウト処理がまたもや【System☤Error】の文字によって阻害された。
ログアウト処理が90%を超えたところでこの表示が突然現れたのだ。
BOの自立ウィルスによって最後の手段であるログアウトが出来なくなった俺達は、
GMも神もいない死の世界に放り出された。――物語はここから始まる。
~Continue?~
次回より物語は本格的にスタートします