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清和の王  作者: 才谷草太
源義仲の反乱
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義仲が遺した物

 粟津で義仲を破った義経軍は、巴御前に護衛を付け鎌倉へと送り、その軍隊は近江の国で一旦進軍を止めていた。

 それと言うのも、義仲が反乱を起こした事で「平家討伐」に時間が開く事となり、その間に平家が勢力を拡大して来てい事により、西国の勢いが増して来ていた。その先陣は福原(現在の兵庫県神戸市)にまで達して来ており、京まであと僅かに迫っていた。

 これを放置し鎌倉へ戻るか、このまま福原へと攻め込み、平家を追い立てるのか。

 朝廷、乃至は頼朝からの命が下るまで、義経は動く気が無いようであった。




 「どう思います?」

 義盛は小高い山の上で、龍馬に問いかけた。まだ夜が明けきっていない、空白の時。

 「どう…っち、何がじゃ?」

 「今の我々ですよ。刻の意思がまるで読めません」

 そう、何をするにしても歴史を変えまいと動くのは仕方が無いが、この刻に飛ばされた使命が分からない。

 「ワシがおった刻に飛んだ理由は、分かっちょるがか?」

 「恐らくは、高松が歴史を変えようとし、それを阻止する事。そして…龍さんを暗殺し、刻を戻す事」

 「ほう…ほいたら、剣さんがワシを斬ったがは、ワシをこの刻に飛ばす事とは無関係、っちゅう事になるのぉ」


 考えてもみなかった。

 自分が幕末に飛ばなければ、龍馬はこの時代に来なかったのか? いや、仮にそうであったとしたら、今の龍馬の役割は? そして、その龍馬と共にここに居る自身は?


 「必然…俺が幕末に飛んだのも、龍さんを斬ったのも、そしてここに居るのも…全てが一つの意思によるのか!?」

 つい口調が昔に戻った。しかしそんな事よりも、何か重大な事が見えた気がした。


 「剣さんは義仲を斬ったけんど、目眩はせんかったがやろ?」

 「確かに…。既に俺達は歴史の一部として取りこまれているかも知れない」

 剣一へと戻った義盛は、顎を引き、グッと眉間にシワを刻みこんで考える。自分達が居なければ、義経軍はどうなっていたのか。

 「富士川…不破の関、粟津。俺達が関与した事で、歴史が変わっていたなら…それこそが俺達の使命だったと言う事か…?」

 剣一は、必死で過去(未来)で習った歴史を思い返そうとしていたが、全く詳細が浮かび上がって来ない。

 「それよりも、変わって無いっちゅう事の方が恐ろしい…ち思うがの」

 「どういう事ですか?」

 剣一は混乱していた。もう、頭で整理がつかないまでに考え過ぎている。


 「ワシらぁが歴史に関与しちゅう事は、確かじゃろ? その上で歴史が変わっちょらんっちゅう事は、ワシらぁがこの時代に生きちょったのが、剣さんの知っちょる歴史かも知れんがじゃ」

 「つまり、俺が未来で学ぶ歴史は、俺達が動かしてしまった歴史…だと? なら、一度江戸に飛び、高松と闘った事、その後、新政府軍と闘った事は?」

 「新政府軍との一件は、ワシは知らん。高松の一件も、ワシらぁをこの刻に飛ばす為かも知れん」

 無責任にも、龍馬はサラッと言い放ち腕を組む。


 剣一は、ふぅと溜息を吐き、目を閉じた。


 「どちらにしても…我々の使命を見付けるのが、先決となりそうですね…」

 口調が戻っていた。有る程度の覚悟を決め、この時代で生き抜かなくては使命も見えて来ない。

 「流れに体を投げ入れ、後はその使命っちゅう物を探すかの。ほいたら、ワシが死んだ後の事、聞かせてくれんかの? そこに何かしら答えと結び付く事があるかも知れんき」


 次第に夜が明けて行く。


 東の空に向かった二人は、この先の未来で起こる悲劇を身に染みつける。

 遠い未来、遠い北方の地で繰り広げられた悲劇を。



 「ほうか…蝦夷でそんな事があったがか…」

 龍馬は朝陽を腕組みしながら見つめていた。その傍らに絶つ義盛も、口元をキュッと結んだまま、しばらく無言の時を送った。


 「刻の意志じゃったら、仕方無いが…ワシが見た未来と変わってしもうたがか」

 「それを言われると、私は返す言葉が無いですね…。貴方を斬ったのは私ですからね」

 顔を伏せ、口を閉ざす義盛に向かい、隣に立つ龍馬はニヤっと笑い言う。

 「いかんちゃ。おまん、やるべき事をやったまでじゃろ? 何を躊躇うがじゃ…ワシは後悔などしちょらせん。剣さんに斬られるなら、仕方無いき…刻がそれを望んだんじゃろぅ? 友に斬られてワシは本望じゃきのぉ」

 龍馬の言葉に、傍らに立つ男は苦笑いを浮かべた。


 「こんな所においでたか、御二方。そろそろ出陣準備が整いますぞ!」

 二人の背後で、弁慶が声を掛ける。

 「分かったちゃ、今行くき!」

 龍馬は大きく笑いながら、朝陽に背を向けて歩いた。




 宣旨が出た。

 西国の平家討伐。


 義盛は、義仲と闘った事により、歴史の一部へと巻き込まれた事を覚悟しつつ、この先の戦へと向かう。


 それは、語り続けられていく戦と、決して語られる事の無い戦。



 そして、余りにも壮大な刻の意思が動き始めようとしていた。

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