序章 ~維新終え~
「土方さん!」
以蔵は群衆に囲まれ、押しつぶされそうになりながら叫ぶ。
胸、右腕、左脚に刀傷を負い、それでも死闘を繰り返す以蔵は右に居る筈の土方を気に掛けると、新政府軍に囲まれた渦の中から声が聞こえる。
「岡田! 此処に居る…左腕をやられた!」
以蔵自身も次々に迫る敵に翻弄されつつ、土方の元へと向かう。しかし、そこに居たのは左腕を失い、腹を槍で貫かれた土方の姿だった。
「ほうか…蝦夷でそんな事があったがか…」
袴を履いた大男は朝陽を腕組みしながら見つめていた。その傍らにも、同じように一人の男が立っていた。大男は懐かしそうに目を細め、口元をキュッと結んだまま、しばらく無言の時が流れた。
「刻の意志じゃったら、仕方無いが…ワシが見た未来と変わってしもうたがか」
「それを言われると、私は返す言葉が無いですね…。貴方を斬ったのは私ですからね」
顔を伏せ、口を閉ざす男に向かい、隣に立つ大男はニヤっと笑い言う。
「いかんちゃ。おまん、やるべき事をやったまでじゃろ? 何を躊躇うがじゃ…ワシは後悔などしちょらせん。剣さんに斬られるなら、仕方無いき…刻がそれを望んだんじゃろぅ? 友に斬られてワシは本望じゃきのぉ」
大男の言葉に、傍らに立つ男は苦笑いを浮かべた。
「こんな所においでたか、御二方。そろそろ出陣準備が整いますぞ!」
二人の背後で、白い布を頭から被った別の、法衣を着た大男が声を掛ける。
「分かったちゃ、今行くき!」
大男は大きく笑いながら、朝陽に背を向けて歩いた。
刻は、再び動き出す。




