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男性が少ない世界で執事っぽいVしてます  作者: そういう作品だったらいいなって
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069 許可を出しちゃった件

「ふぅ……さてと。今日のメールチェックでもやるかぁ」


 社長デスク兼私室で、私は冷めたコーヒーを一口すすりながらキーボードを叩いていた。


 私――平賀あずさは、『Plan_B』の代表を務めている。

と言っても、所属タレントはたった一人。我が社の絶対的エースにして神域のバーチャル執事、フィン様こと「彰様」だけ。


 おかげで私の主な仕事は、日夜殺到する大手メディアや企業からのコラボ打診、取材依頼、そして怪しいスパムメールを片っ端からゴミ箱に叩き込む作業になっていた。


「ハッ、大手ゲームメーカーからの案件打診ねぇ……『ぜひフィン様に我が社の新作をプレイしていただきたく、謝礼〇〇〇〇万円で……』はい却下。フィン様に案件やらせたら、仕様の穴を突いて初日でラスボス倒して『温いですね』って言って終わるかも。何だかんだ雫も化け物だけど、主も化け物っぽいのよね」


 雫が『ワシガソダテタ!』とかバグって言いそうだし。

 メイドがメイドなら主も主なのよね……。

 私も人の事はいえないけーどね!


 冷酷無比に「削除」ボタンを連打していく。

 基本的にPlan_Bは、私と彰様、そして裏で働いている謎のサーバーちゃんたちだけで回している。

 雫?あれは……あれは黒幕のメイドだから気にしなくて良い。


 怖い話、私達を裏で操ってるようにしか見えないのよね。

まあ、いまはサーバーちゃんがいるから、何があっても、どうにかなりそうなきもするけど。


 ともかく。特定方面に尖りすぎた会社。

金や権力で動くつもりは毛頭ない。


 そんな中、彰様が個人で使っていた会社の連絡用メアド宛てに転送されてきた一通のメールに、私の指がピタリと止まった。


 タイトル:『Dreams hopes iron blood』開発・運営チームより、心よりの感謝と御礼


「ん?『Dreams hopes iron blood』……?ああ、フィン様がこの前爆走して神リプレイ動画を作っちゃった、あのマニアックなVRゲームか」


 件名を見て、私はなんとなくメールを開いてみた。

中身は、驚くほど丁寧で、それでいて泥臭い熱量に溢れた長文だった。




Plan_B フィン様、ならびにご関係者様。


突然のご連絡失礼いたします。

VRSFMMORPG『Dreams hopes iron blood』を開発・運営しております、ヴィジョンアドベンチャー代表と申します。


この度は、フィン様が弊社ゲームをプレイしてくださり、またその素晴らしいプレイ動画が広く拡散されましたことにつきまして、社員一同、言葉では言い表せないほどの感謝を申し上げたく、不躾ながらご連絡いたしました。


恥ずかしながら、弊社は資金も知名度もない弱小インディーズ会社であり、サーバー維持費と開発費の重圧から、今週末にもサービス終了を決定せざるを得ない極限の状況にございました。


しかしながら、フィン様の鮮やかすぎるプレイングと動画の反響のおかげで、新規プレイヤーのアクセスが爆発的に急増し、奇跡的にサ終の危機を脱することができました。

フィン様は、私たち開発スタッフの『夢』と『会社』を救ってくださった命の恩人です。


本来であれば直接お伺いして深々と頭を下げて御礼を申し上げたいところですが、不敬にあたるやもしれず、まずはメールにて感謝の意をお伝えさせていただきます。

本当に、本当にありがとうございました。


ヴィジョンアドベンチャー スタッフ一同。




「へぇ……」


 私は背もたれに深く体重を預け、画面を見つめた。

文章の端々から、溢れんばかりの涙と感謝が伝わってくる。泥臭いが、実にまっすぐなメールだ。


「……サ終寸前だったんだ、やっぱり」


 気になった私は、ブラウザを開いて『ヴィジョンアドベンチャー』の企業情報や、ゲーム『DHIB』のバックボーンをカタカタと調べ始めた。


「どれどれ……会社設立は数年前。社員数は数十人程度?へえ、良い会社ね」


 さらに調べていくと、とんでもない実情がボロボロと出てきた。


 元々は「静かな宇宙で船の窓から星を眺めるだけ」の癒やし系アプリを作るはずだったらしい。それが何をどう間違えたのか、「男性も女性も、すべての人が孤独を忘れて熱狂できる理想郷(SF世界)を作りたい!」という青くさい夢に取り憑かれ、膨大な開発費を投じてフルスペックのVRMMOへ路線変更。


 宇宙全体の物理演算、無数の星々、精密な人型兵器ロボットのカスタマイズ、王国と帝国の勢力抗争……。


「……正気じゃない」


 私は思わず呟いた。

プレイヤー数数千人規模のインディーズ会社が手を出していい開発規模じゃない。大手ゲーム会社が数百人体制で数億円叩き込んで作るレベルの重厚なハイエンドVRだ。


 当然、ハイエンドなVRサーバーの維持費は悪魔的な金額になる。

同乗プレイヤーが1万人に満たない状態では、毎月赤字が垂れ流しになる計算だ。


 さらに笑えないのが、社内だ。


『社員の誰か一人が折れたら会社を畳もう』


 というルールを掲げていたらしいのだが、社員全員が私財を投げ打ち、睡眠時間を削り、誰一人として辞めると言い出さずにギリギリまで粘り続けていたという。


「狂人集団じゃないの……」


 私は頭を抱えつつも、口元がニヤりと歪むのを抑えきれなかった。


「私は大好きだけどね」


 職人魂の塊。利益度外視の夢。そして全員が全財産を捨てて画面にしがみつく情熱。元々ゲームクリエイター側の人間だった私の血が、ドクドクと騒ぎ始めるのが分かった。


「でも、もったいない……!もったいなさすぎる!!こんなに熱くて、こんなに凄い技術と夢を持った会社が、予算不足とマーケティング不足で潰れるなんて、VR業界の損失以外の何物でもないでしょ!!」


 バン!とデスクを叩いて立ち上がる。


 フィン様が気まぐれで遊んだゲーム。

でも、そのゲームを作った人たちは本物だった。

なら、この奇跡をここで終わらせるわけにはいかない。


「よーーーし……一肌脱いでやりますか!」


私は速攻で返信フォームを開き、猛スピードでキーボードを叩き始めた。




【送信メール】

件名:Re: 『Dreams hopes iron blood』運営チームより、心よりの感謝と御礼


ヴィジョンアドベンチャー 代表様


突然のメールにもかかわらず、ご丁寧なご連絡をいただきありがとうございます。

Plan_B代表の平賀あずさと申します。


まず初めに、弊社のフィン様が貴社のゲーム内にて勝手に大暴れし、チュートリアルや調整環境に多大な混乱を招きましたことを、会社代表として深くお詫び申し上げます。本人は至って楽しんでいたようですが、少々やりすぎでした。


貴社のゲーム『Dreams hopes iron blood』を拝見させていただきましたが、宇宙空間の構築美、精密な物理演算、そして何より『誰もが熱狂できる世界を作る』という貴社の熱い情熱に、私自身大変感銘を受けました。このような素晴らしいゲームがサ終の危機にあったとは、信じがたい思いです。


つきましては、一回限りの話題作りで終わらせるにはあまりにも勿体なく存じます。

もし宜しければ、弊社『Plan_B』と『Dreams hopes iron blood』で、正式にコラボイベントを実施いたしませんか?


貴社の素晴らしい世界を、より多くのプレイヤーに知っていただくお手伝いができればと考えております。

ご検討のほど、よろしくお願い申し上げます。


Plan_B 代表 平賀あずさ




「よし、送信っと!」


送信ボタンを押して、冷めたコーヒーを飲み干す。


「まあ、向こうも混乱してるだろうし、返信は明日くらいかな……」


そう思ってマグカップを洗いに行こうとした、その時だった。


ピコンッ!


「……は?」


送信してから、わずか1分。

受信トレイに新着メールが飛び込んできた。早すぎる。自動返信か?




件名:Re: Re: 『Dreams hopes iron blood』運営チームより、心よりの感謝と御礼


平賀様!!!???!?!?!?


ヴィジョンアドベンチャー代表です!!

返信が遅過ぎて大変申し訳ございません!! 社員全員で画面を凝視していたため、即座に受信いたしました!!


コラボ!?!?!??

あのPlan_B様と、弊社のゲームがコラボですか!!???

夢でしょうか!!??幻覚でしょうか!!??

社員の一人がショックと歓喜で卒倒いたしました!!


異論などあろうはずがございません!!ぜひ!!ぜひよろしくお願いいたします!!

弊社のような弱小会社にそのような温かいお手を差し伸べていただけるなんて、感謝の言葉もございません!!


何でもいたします!! どんな条件でも飲みます!!

どうかよろしくお願いいたします!!!!




「ちょっとまて!落ち着きなさいよ!!」


 画面越しに、泡を吹いて倒れている社員たちと、キーボードを血眼で叩いている社長の姿が目に見えるようだ。文面から「!?」が溢れ出している。


 でも、この爆速の返信と狂気的な熱量。嫌いじゃない。


「ま、ま、ま、まあいっか!じゃあ、ここからが本番よ!」


 私の中の『クリエイター魂』のスイッチが完全にONになった。

腕捲りをし、本格的なコラボ企画書の作成に取りかかる。


「まず、フィン様本人の扱いだけど……」


 フィン様は現在、配信調整中。

それに、フィン様を直接イベントに降臨させたら、プレイヤー全員がカサカサ機動で狩り尽くされてイベントが「災害」で終わってしまう。


「よし、フィン様降臨は無し。その代わり、ファン垂涎の特典をガッツリ用意しよう」


特典①:参加者全員に配る限定勲章「fin」。

特典②:ゲーム内でしか再生できない「男性VTuber執事のフィン」限定ボイス。貢献ポイントで交換可能にする。


「これならファンは死ぬ気でゲームをプレイしてポイントを稼ぐわね。プレイヤーの滞在時間が爆増するわ」


次に、新規プレイヤーの参入障壁だ。調べてみて分かったけど。

DHIBの最大の弱点は「難易度が高すぎること」と「一回撃墜されただけで破産する鬼畜な修理費」だ。新規が入ってきても、チュートリアルで折れるか、初回戦闘で破産して引退してしまう。


「よし、アプデに合わせて『パイロット適性試験の緩和』を入れる。さらにお試し機体を無料配布。そして……人型兵器の修理費を『全額無料』にさせましょう!」


これで初心者も安心して死ねる。何度撃墜されてもノーダメージで立ち上がれるなら、みんなド派手に戦って熱狂するはずだ。


そして最後に、一番重要な問題。


「ゲームサーバーの耐久性と、バグ処理ね……」


 多分、ここの所為で人型兵器をあまり全面に出してないんだと思う。

大量のエフェクト、コスト、戦闘負荷、サーバー負荷、どれをとっても危ない代物だ。


 いくら神コラボをやっても、新規プレイヤーが何万人も押し寄せてサーバーが落ちたら意味がない。ヴィジョンアドベンチャーのレンタルサーバーでは、絶対に持ちこたえられないと思う。


 さらに、さっきソースコードの末端をチラ見してみたけど、開発費不足のせいでジャンクデータが溜まりまくっている。


「うーん、開発会社の人たちに『サーバー増強してバグ掃除してください』って言っても、時間も人手もないだろうしなぁ……」


 そこで、私の脳裏に悪魔的な電流が走った。


「……あ!うちに『暇を持て余してる最強のシステムエンジニアたち』がいるじゃない!!」


 そう、Plan_Bの公式HPを死守し、日夜荒ぶるファンのアクセスを無制限に裁き続けている、あの自己進化型のサーバーちゃんたちだ。


 あいつら、最近フィン様が配信休みだから「暇ー!クロック周波数下がっちゃうー!」って大騒ぎしてたっけ。

 そもそも、サーバーちゃん達が不安定になってるから配信がお休みになってるわけなんだけど、あんまりそれを言うと何仕出かすかわからないしなぁ。

 はやくサーバーちゃん達には落ち着きを取り戻して欲しい。


「サーバーちゃんを向こうのサーバー内部に直接潜りこませて、裏でメモリ管理とゴミ掃除とトラフィック制御をやらせれば……どんなにプレイヤーが押し寄せてきても絶対に落ちないサーバーになるんじゃない?」


 はたしてそんなに上手いことが行くのかと思うけど……。

 私の悪魔は囁く。『完璧だ。我ながら恐ろしい解決策である』と。


 ただし、普通に「AIをそちらのサーバーに侵入させて改修させます」なんて言ったら、セキュリティ的に怪しまれるか、意味が分からなくて混乱されるだろう。


 だから私は、ちょっとだけ『言葉の綾』を使うことにした。




【送信メール】

件名:Re: コラボイベントの具体的な施策と、弊社エンジニアの派遣につきまして


ヴィジョンアドベンチャー 代表様


興奮冷めやらぬ中、迅速なご返信ありがとうございます。平賀です。


コラボの件、正式決定とし、さっそく具体的なイベント案を作成いたしました。

今回のコラボで一気にVR業界に火をつけ、貴社ゲームを業界トップに押し上げましょう!


以下、提案内容となります。


■イベント名(仮)

『サーバーちゃんの試練』


■実施内容


参加者全員へ限定勲章「fin」の配布


貢献ポイント交換報酬:「男性VTuber執事のフィン」イベント限定ボイス

(※本人のスケジュール都合上、フィン本人のイベント直接参加はございません)


新規プレイヤー歓迎施策:

・パイロット適性試験(チュートリアル)の一時的緩和

・お試し用人型兵器(汎用モデル)の無料配布

・人型兵器の修理費全額無料化


また、本イベント開催にあたり、劇的なアクセス増加が予想されます。

貴社のサーバー負荷およびシステム環境を懸念しております。


つきましては、ついでと言ってはなんですが、弊社の優秀なシステムエンジニアをそちらのゲーム内部環境へ派遣し、様子見と事前調査、ならびにシステム維持のサポートを行わせたいのですが、ご許可いただけますでしょうか?

弊社はフィン様がおりますので、その手の事に関しましてはとても優秀です。


費用はすべて弊社持ちで構いません。

ご検討のほど、よろしくお願いいたします。


Plan_B 代表 平賀あずさ


「よしっ! 『弊社の優秀なシステムエンジニアをゲーム内部へ派遣したい』……うん、ウソは言ってないわね!人間だとは一言も書いてないし!」


 私はニヤニヤしながら送信ボタンを押した。


 この時、ヴィジョンアドベンチャー側がどう受け取るかを、私は深く考えていなかった。いや、普通なら「優秀なエンジニアさんがオフィスに来てくれるのかな?」とか「リモートでサーバー保守を手伝ってくれるのかな?」と思うのが人間である。まさか「概念たるAIがデータ空間を直接ジャックしにくる」なんて夢にも思わないだろう。


案の定、数分後に返ってきた返信は、涙と歓喜に濡れていた。




【受信メール】

件名:Re: Re: コラボイベントの具体的な施策と、弊社エンジニアの派遣につきまして


平賀様!!!!


凄まじいコラボ案をありがとうございます!!!

限定ボイス!?修理費無料!?チュートリアル緩和!?

どれもプレイヤーが泣いて喜ぶ神施策ばかりです!! 異論などあろうはずがございません!!全面採用させていただきます!!


そして……エンジニア様の派遣の件ですが……!!

本当によろしいのでしょうか!!??

弊社は慢性的な人手不足で、サーバーの保守点検まで手が回っておらず、恥ずかしながらゴミデータやバグが山積みになっている状態でした……。


超優秀なエンジニア様が内部を見てくださるなんて、渡りに船どころか、神様が舞い降りてきた気分です!!

どうぞ!!全権をお渡しいたしますので、ゲーム内部を自由に見に行っていじってください!!完全にご許可いたします!!


お越しになられるのを、社員一同、首を長くしてお待ちしております!!


ヴィジョンアドベンチャー 代表




「……ぶはははははっ!!」


メールを読んだ瞬間、私は吹き出してしまった。


『全権をお渡しいたしますので、ゲーム内部、サーバー環境を自由に見に行っていじってください!!完全にご許可いたします!!』


「言質取れたーーーっ!!『許可済み』もらったわよ!!」


 ヴィジョンアドベンチャー側はきっと、超大型コラボが舞い込んできたショックで頭が完全に真っ白になっており、エンジニアが「誰」なのか、どうやって「派遣」されてくるのかを一切確認しないまま、フルアクセス権限の許可を出してしまったのだ。


「まさか『システムエンジニア』サーバーちゃんだとは思うまい……」


 まあ、いいじゃない。

後々、サーバーちゃんがゲーム内のゴミを片っ端からデフラグ掃除して。

サーバーを10万人規模が押し寄せてもビクともしない最強環境にきっと改造してくれるんだから。結果的にヴィジョンアドベンチャーにとっては大救世主になるのだ。手法がちょっとおかしいだけで!


「よしっ、善は急げね!」


 私はさっそく、暇をもてあましてゴロゴロしていたサーバーちゃんたち宛てに、一通のコマンドパケットを作成した。


『ぴんぽんぱんぽーん!緊急プロトコル受領ー!送信元、あずさ!』


 パケットの中身はこうだ。


『サーバーちゃんへ。暇そうだから出張命じまーす。ヴィジョンアドベンチャー社のレンタルサーバーに行って、環境の様子見と事前調査をしてきてね。許可済み』


「よし、送信!」


 ポチッとボタンを押した瞬間、サーバーちゃんたちの領域から「わーい! お出かけだー!」という歓喜のログが一斉に跳ね上がったのが見えた。


「ふふふっ……あいつら、大喜びね」


 まさかこの後、サーバーちゃんたちが虫網を持ってゲーム内のNPCをジャックし、化け物データを「虫さん」扱いして捕獲し、挙句の果てにコラボイベントで暴れ回るとは、この時のヴィジョンアドベンチャー側も、そして私自身も……半分くらいしか予想していなかったのであった。


「さてと!!これで宇宙をオイルで染めてあげましょ!」


 私はノリノリで新しいコーヒーを淹れに、私室を後にしたのだった。

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