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男性が少ない世界で執事っぽいVしてます  作者: そういう作品だったらいいなって
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035 彰も雫もしらない件

 いつものように作業部屋兼配信部屋のデスクトップPCに向かい、ネットサーフィンでもしようかと画面を開いたときだった。


 ふと、隅に表示されているSNSのトレンドワードのランキングが目に留まった。

そこには、見慣れない言葉がいくつか、異様な勢いで並んでいた。


『フィン様の部屋』

『18時45分』

『18時45分の謎』

『書斎の3分間』

『戸棚落としRTA』


「……ん?」


思わず声が漏れた。

なんだこれ。フィンに関連するようなワードが、やけにピンポイントでトレンドのトップを席巻している。

 首を傾げながら、一番上にあった『フィン様の部屋』というリンクをクリックしてみた。


 画面に映し出されたのは、見覚えのある――というか、まさに今自分が座っているこの部屋にそっくりな、精巧なアニメーション背景。

 新しい公式のウェブサイトだった。


「……え、これ……フィンの部屋……だよね?」


 画面の中では、夕方でエモいグラデーションの背景。

静かなオルゴールのBGMが流れている。

 そして、なんか知らない間に以前よりバージョンアップされてる気がする。


 これ、たぶんあずささんの仕業?

 面白半分、そして純粋な困惑を覚えながら、私はマウスを動かして画面を適当にカチカチとクリックしてみた。


 SNSの話題から内容をざっと把握して、例の場所をつっついてみる。

 画面の右奥にある古い木製の戸棚のあたりで、マウスカーソルが突然指の形に変わった。


「おお?」


 おそるおそるクリックしてみる。

カチッ、カチッ、と軽い音がするだけで最初は何も起きない。面白くなって何度か連打してみると、画面の戸棚が急にグラグラと揺れ始めた。


「おおおお?なんだこれ?」


 さらに連打の勢いを強めると、ガタガタとリアルな木が軋む音とともに、画面の向こうから木製の戸棚がスコーンと手前に落下してきた。


「うわっ!?びっくりした」


 演出が妙に凝っていて、ちょっとビビった。

 画面の下の方でゴロゴロと転がっている戸棚をクリックしてみると、確かにマウスでドラッグして持ち上げることができた。


 スポッと元の壁の隙間にはめ込むと、パズルのピースがハマったみたいに綺麗に元に戻る。

 そして、話の通り、その隙間から一枚の紙が床に落ちてきた。


「すごい作り込みだな……これ、ちょっとしたゲームだ」


 感心しながら、落ちてきた手紙をクリックしてみる。

画面が切り替わり、白い便箋のアップに、万年筆で書かれたような綺麗な文字がぽつんと浮かび上がった。


『18時45分』


「……18時45分?」


 首をかしげる。

文字はそれだけ。

説明書きは一切ない。


 画面の隅にある時計を確認すると、ちょうどタイミングよく、もうすぐ夕方の18時45分を指し示そうとしていた。


 ――次の瞬間、画面の演出が変わった。

夜景になった部屋の右側の扉が、わずかに光った気が……。


 SNSに書いてある手順を読んで、マウスを合わせるとクリックできるようになり、ポチッと押すと、別のページへと画面が切り替わった。


「すごい!移動したぞ」


 飛び込んだ先は、青白い月明かりに照らされた、重厚な書斎だった。

巨大な本棚の山、中央の木製デスク。雰囲気抜群の空間に、私は「おぉ……」と少し感動すら覚えた。

だが、画面の右下に目をやった瞬間、私の表情が固まった。


『残り時間:03:00』


「……制限時間、3分?」


 なるほど、これが最後にかいてあった。


『詰まった!』

『どうにかしろここ!』

『わけがワカリマセーン!』

『どうすればいいの』

『もう手が腱鞘炎だよぉ……』

『フィン様たすけてー!』


って困ってるところらしい。

じりじりと数字が減っていく。


「なんか、爆弾解除みたいな表記だね」


 慌ててデスクの上の分厚い本や、引き出しっぽいところをマウスでめちゃくちゃにクリックしまくる。


「ここ調べたらなんかあるかなっと……!」


 カチカチカチカチと音を立ててカーソルを這わせるが、どこをクリックしても「カチッ」というだけの無機質な音が返ってくるだけで、びくともしない。

残り時間が1分を切り、焦りが最高潮に達する。


「うわ、何もおきなーい!どこをどうしろって?全然わかんないな」


 焦れば焦るほど頭が真っ白になり、あちこちを適当に連打しているうちに、無情にもタイマーはゼロになり――。


――パッ。


「あ」


画面が強制的に切り替わり、最初の「何もない夜景の部屋」へと綺麗に放り出されてしまった。


「……終わったぁ……」


 私は椅子にもたれかかり、呆然とパソコン画面を見つめた。

たった3分。ヒントも分からないまま、ただ焦らされて追い出されただけ。


 だけど、なんだこれ。めちゃくちゃ悔しいけれど、めちゃくちゃ面白いぞ。

まるで昔夢中でやったフリーの理不尽な謎解きゲームみたいで、妙にワクワクしてしまう。


「ははっ、なんだこれ……。全然わかんないけど、すごい凝ってる……。もう一回あの書斎に行きたくなるね」


 一人で画面に向かってニヤニヤしながら、再び右側の扉をクリックしてみる。しかし、当然のように「カチッ」と乾いた音がするだけで、もう扉が開く気配はない。

やっぱり一筋縄ではいかない仕様らしい。


「ふふ、よく出来てるなぁ……」


 声に出して感心していると、背後でカチャリとドアノブが回る音がした。

振り返ると、そこにはいつものように完璧で美しいメイド服を身にまとった雫が立っていた。部屋の掃除道具を片手に静かに一礼する。


「失礼いたします、彰様。お部屋の清掃に参りました」

「あぁ、雫、ちょうどよかったよ」


 私は面白かった画面をそのままにして、くるりと椅子を回転させた。

目の前で完璧な笑顔を浮かべている愛しいメイドに、ちょっとこの面白かった出来事を話したくなったのだ。


「ねえ、雫。ちょっとうちの公式サイト見てたら面白いもの見つけたんだけどさ」

「面白いもの、でございますか?彰様がそう仰るなら、さぞや世界を揺るがす興味深い代物なのでしょうね」


 相変わらず私に対する当たりが全肯定の過剰な褒め言葉だったが、気にせずパソコンの画面を指さした。


「これ、これ。なんかフィン様の部屋にそっくりな部屋のところでさ、いまネットのトレンドで盛り上がってて。なんか、隠しギミックで戸棚を落として、出てきた手紙の時間の『18時45分』になると、この書斎の部屋に入れるんだよ」


 楽しそうに画面の書斎のスクショを見せながら説明すると、雫は一瞬、スッと動きを止めた。

そして、わずかに首をかしげる。


「……書斎、で御座いますか?」

「そう!でさ、その書斎に入ると『残り時間3分』っていう謎のカウントダウンが始まって、もう何が何だか分からないうちに追い出されちゃうんだ。ものすごく面白いんだよこれ。雫、知ってる?」


 私が軽いノリで問いかけると、雫は数秒間、完全にフリーズした。

 それから、ゆっくりとまばたきをし。

 少し困惑したような、探るような目を私に向ける。


「……知ってる? ……で、ございますか?」

「うん、知ってるかな?」

「いっ、いえ……。全くしりません……」

「知らない?」


 雫は小さく首を横に振り、メイド服の裾をキュッと握り締めながら、どこか引きつったような、でも必死に冷静を装っているような声で答えた。


「はい、知りません。存じ上げておりません……。

何故、私が、知らないのでしょうか?」


 そこで、一歩前に出た雫がパソコン画面を見て、気難しそうな顔をする。


「は、はぁ……。これは……。

たぶんあずさの仕業ですね。

隠しコンテンツ……で、御座いますか……」


 雫は冷や汗を拭うような仕草を隠すように、綺麗に整えられた笑顔のまま、ぐっと視線をパソコンの画面へと向けた。

 その瞳の奥で、わずかに何かの計算か、あるいは冷徹なまでのパニックのようなものが渦巻いていたが、のんきな私にはそれに気づくよしもなく、ただ「明日もまたあの時間になったら挑戦してみるか」と、一人で機嫌よく笑うのだった。

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