彼女は写真に映らない
中学時代の友人・桜田佐紀は写真に映らない。
いや映りたがらないという意味で言っているわけではない。本当に映らないのだ。
カメラやセンサー、ありとあらゆる機械はなぜか佐紀に対して反応を示さなかった。
当時、破天荒だった彼女はよくその特性を生かして万引きを繰り返していた。
「機械ごときじゃあ私を捉えることができない」
そう言って盗んだパンを私によくくれた。このセリフは佐紀がよく口癖にしていて、本人曰く決め台詞だそうだ。
私は、佐紀のその傲慢さが好きだった。
だから、その行為を本格的に止めようとせずなあなあにしてしまっていたのかもしれない。
しかしながら、そんなついに佐紀に天罰が下る日が訪れた。
天罰の前日、私と佐紀は川原を散歩していた。
その話は唐突だった。
「ショッピングモールを一緒に襲おう」
「そんなの駄目にきまってるじゃん」
私のいつもの一般論は彼女に聞き届けてもらえなかったようで、呆れた顔でこういった。
「そりゃ駄目に決まってるよ。でも私にはそれをできるだけの力があるんだよ? やらなきゃ損だよ。人生は一度きりよ」
「そりゃそういう考え方もあるかもしれないけど。でも……」
「せっかくこっちが真面目に誘ってるんだよお。いいじゃんよお。一緒にやろうぜえ」
このときの彼女はとてもしつこかった。断っても、断ってもこのふざけた計画に参加させようと誘ってきた。その、ふざけた調子で犯罪を勧める彼女に押され気味になってしまって、私はついに泣いてしまった。
それで、さすがに佐紀もおどおどし始めた。
彼女は私にくしゃくしゃのハンカチを渡して、泣き止むのを待ってくれた。(ちなみにこのハンカチも盗んだものだった)
「分かった。じゃあやらないよ」
そう言ってくれた彼女の顔はいつになく真剣だった。
そして彼女は右手の小指を差し出した。一瞬何のことか分からなかったが、察すると私も小指を差し出した。
「「指切げんまん嘘ついたらハリセンボンのーます 指切った!」」
指切りげんまんをした後、その日は気まずくなってすぐ別れた。
家に帰ってから、そういえば佐紀が犯罪に私を巻き込もうとするのはこれが初めてだったと気づいた。
次の日、佐紀は学校に来なかった。
私には一つだけ心当たりがあった。
彼女は本当にショッピングモールへ行ったのではないか? そこで何かがあって今は大変な状況にあるのではないか、と。
でも私は彼女との指切りげんまんを信じたかった。あのときの、真剣な顔を信じたかった。
だから、私は彼女の計画のことをだれにも言わなかった。
今考えると約束なんかよりも、彼女の安否を心配するべきだったのかもしれない。
疑念を抱いた時点で誰かに相談するべきだった、かもしれない。
でも当時は、いや今でも彼女のことを信じていられる人間でありたかった。
捜索が始まってから3日後ようやく彼女は見つかった。やはり、佐紀はショッピングモール内にいた。彼女は、その中にある精肉用冷蔵庫の隙間に挟まって、抜け出せないまま凍ってしまったらしい。
ショッピングモールには、監視カメラやセンサーが張り巡らされていて、もちろん冷蔵庫のある部屋にもあった。けれども誰もそれに気づかなかった。
なぜなら佐紀は写真に映らないから。機械ごときじゃ彼女のことを捉えられない。
佐紀の遺影は少し変わっていた。彼女は何せ写真がないのだ。なので遺影の代わりに似顔絵が置いてあった。でも、それもカメラと同じで全然佐紀のことを捉えられていないような気がした。
あれからかなりの時間が経った。最近では佐紀の顔をよく思い出せなくなってきた。写真に残らない彼女は記憶から消えるのも速いのだ。
そのことが、少し哀しい。




