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常冬の国に春を呼ぶ大聖女~無実の罪で婚約破棄された私が出会ったのは、『絶氷の魔術師』と呼ばれる美丈夫でした~  作者: 夏芽空


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【9話】困難な課題


 ブロディア邸から少し離れた場所には、とうの昔に枯れてしまった巨大な樹木が立っている。

 私とアルシウス様は今、その巨木の前に立っていた。

 

 今日の研究はいつもの研究室ではなく、ここで行うらしい。

 外で行うのは初めてだ。

 

「こんなところまで付き合わせてしまってすまないな。寒くないか?」

「大丈夫です。まったく問題ありません」


 分厚いコートを三枚重ね着し、さらにはアルシウス様が魔法で体を温めてくれている。

 上着一枚で馬車から追い出され雪山をさまよっていたあの時とは打って代わり、今の私の防寒対策はバッチリ。

 寒さは感じないし、むしろちょっと暑いくらいだ。

 

 この状態でなら雪山を越えることだって、そう難しいことではないだろう。

 

「それで、今日はどのようなことを行うのですか?」

「あぁ」


 アルシウス様が上を見上げる。

 その先にあるのは、目の前に立っている枯れた巨木だ。

 

「これはとうの昔に死んでしまった巨木。あとは倒壊するのを待つだけとなっている。こいつをキミの力で生き返らせることはできるか?」

「……やってみます。ですが、たぶん難しいかと……」


 ここまで巨大なものをよみがえらせるには、計り知れないくらいの膨大な魔力が必要となる。

 大聖女の力をもってしても、その条件を満たすのは難しいだろう。


 しかも、枯れてから時間が経っているとなればなおさらだ。

 死んでからの時間が経つほど、よみがえらせるのには多くの魔力が必要となる。

 

 これら二つのことから、アルシウス様のリクエストに応えるのは難しい。

 悔しいが魔力が足りていない。


 それでも、やる前から諦めたくはなかった。

 巨木の幹に両手のひらをつけた私は、その一心で魔法をかけてみる。

 

「……申し訳ございません」


 だけど、巨木が再び息を吹き返すことはなかった。

 失敗だ。


 アルシウス様のこと、ガッカリさせちゃったわよね……。

 

 求められたことに私は応えられなかった。

 そういうときにどういう反応をされるかなんて、簡単に予測できてしまう。


 おそるおそる隣を見てみる――が。

 アルシウス様のリアクションは、思っていたのとは少し違っていた。

 

 腕を組んでいて、なにやら難しい顔をしている。

 落胆しているようにも見えるけど、どちらかといえば考え事をしているような感じだ。


「……考え事、ですか?」

「あぁ。少し引っかかることがあってな。前に話しただろ、俺の特別な力のこと」

「はい。魔力を可視化できる――ですよね?」

「そうだ。その力でキミの体内の魔力を見ていたのだが、流れがどうにもおかしい。無理矢理抑えつけられているような――うん? エレイン、それはなんだ?」


 アルシウス様の視線が向かうのは、私の右手首。

 もっと言えば、そこにつけている銀色のバンクルだ。

 

「このバンクルは神殿からいただいたもので、大聖女としての証、だそうです。常に肌身離さずつけているように、と小さい頃からそう言われてきました」

「どこかで見覚えが――! ……思い出した。ダメだ、エレイン! 今すぐそのバンクルを外せ!!」


 ハッとしたアルシウス様が、珍しく声を荒げる。

 見慣れないアクションに私は唖然とするしかできない。

 

「それはただのアクセサリーではない! 着用した者の魔法の力を強制的に弱体化させる、とんでもない魔道具だ!」

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